江東区議会議員 中島雄太郎

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豊洲五丁目にデータセンター計画 ―なぜ江東区にDCが集まり、区の税収にはならないのか

この記事のポイント

  • 豊洲五丁目で新たな大規模データセンター計画「(仮称)HND12」が動き出した。 延床面積24,000㎡は千石の計画(約22,640㎡)とほぼ同規模。千石の紛争を受けて区が制定した指導要綱に基づく標識設置・説明会という手続きが、区内で適用される新たな事例となった。
  • データセンターが生む税収の大部分は、江東区には入らない。 23区では固定資産税(サーバー等の償却資産を含む)が区税ではなく都税だからだ。同じ施設が、千葉県印西市では市の財政を潤し「歓迎される施設」になる一方、江東区では税収は都と23区全体に薄く溶け、騒音・排熱・危険物・工事という負担だけが立地地域に残る
  • この「便益は広く薄く、負担は狭く濃く」という構造を、江東区は歴史的によく知っている。 ごみ問題だ。社会はかつて、この構造に負担調整という規範で応えた。データセンターには、その応答がまだ何もない。

豊洲五丁目「(仮称)HND12」計画

江東区豊洲五丁目4番9号(豊洲駅から徒歩数分)で、データセンターの建築計画の標識が2026年7月27日に設置されました。

標識によれば、建築物の名称は「(仮称)HND12」。用途はデータセンター、敷地面積6,689.30㎡、建築面積4,500㎡、延べ面積24,000㎡、地上6階・地下0階、高さ61.1m。着工予定は2027年1月です。建築主はデジタル東京ベイ1特定目的会社(SPC)、設計者は株式会社久米設計。

また、説明会に参加された住民の方から説明会資料のご提供を受け、内容を確認しました。それによれば、施設の運用管理と事業推進はMCデジタル・リアルティ株式会社が担うと説明されています。近隣対応の窓口は株式会社ユーエスアイエンジニアリングで、これは千石の計画で近隣窓口を務めている会社と同じです。事業主体は千石とは別ですが、住民への説明の実務は、区内の2つの計画で共通の体制が担っていることになります。

この標識は、千石の紛争を受けて区が制定した「江東区大規模データセンターに係る建築計画の早期周知に関する指導要綱」第5条第1項に基づいて設置されたものです。要綱に基づく住民説明会は、8月6日・7日の19時から豊洲ベイサイドクロスで開催されました。

私は8月8日に現地で標識を確認し、資料の提供を受けたいと考え、標識に記載された問い合わせ窓口(株式会社ユーエスアイエンジニアリング)に電話をかけました。案内は、8月16日まで夏季休暇、というものでした。説明会の翌日から、問い合わせ窓口が9日間閉まるスケジュールです。標識を見て計画を知った住民が資料を求め、質問できるようになるのは、8月17日以降ということになります。要綱は説明会の「開催」を求めていますが、対話の「実質」までは定義していません。この点は、千石で私が繰り返し指摘してきた課題がそのまま現れた形であり、稿を改めて取り上げます。

立地を見る

計画地の周辺環境を確認しておきます。北側には都営豊洲五丁目アパートが隣接しています。南西側は道路を挟んで区立豊洲西小学校。周辺には保育施設が複数あり、南東側には693戸の大規模分譲マンションが道路を挟んで面しています。

規模は千石とほぼ同等、そして周囲には住宅・学校・保育施設。千石で問われた論点の多く――騒音、排熱、非常用発電機とその燃料、工事期間中の生活影響――は、条件次第でこの場所でも問われることになります。非常用発電機の規模、燃料の種別と貯蔵量、冷却方式、蓄電池の有無といった設備の詳細は、標識からは分かりません。今後、説明会資料等で確認していきます。

本記事の主題は、しかし、個別の設備論ではありません。千石に続いて豊洲でも計画が動き出した今、より根本的な問いを整理しておきたいのです。

データセンターが建つと、江東区には、何がもたらされるのか。

税収はどこへ行くのか ―23区の特例

データセンターは巨額の投資です。建物だけでなく、内部に設置されるサーバー、電源設備、空調設備は、事業用の「償却資産」として固定資産税の課税対象になります。データセンターの場合、この償却資産の評価額は建物を上回る規模になることも珍しくありません。

普通の市町村であれば、この固定資産税(土地・家屋・償却資産)は市町村税として、立地自治体に直接入ります。

ところが、23区は違います。地方税法の特例により、23区内では固定資産税と市町村民税法人分(法人住民税のうち市町村分)は、区ではなく東京都が課税・徴収します。これらは「調整税」と呼ばれ、都区財政調整制度を通じて、その56%(令和7年度から。それまでは55.1%)が23区全体に配分され、残りは都に留保されます。

しかも、特別区への配分は「立地した区に返す」仕組みではありません。各区の基準財政需要額と基準財政収入額の差、つまり財源の不足額に応じて、23区全体に配分されます。江東区に大規模データセンターが建ち、都の調整税収入が増えたとしても、その増収分が江東区に還元される経路は、制度上どこにも存在しないのです。

雇用はどうか。データセンターの常駐者は少数です。住民は増えず、住民税も生みません。オフィスビルのような昼間人口の消費もほとんど期待できません。同じ土地にマンションが建てば数百世帯の住民税と地域消費が、商業施設が建てば賑わいと雇用が生まれることと比べれば、まちへの還流は桁違いに小さい。

一方で、負担の側は確実に、そして地元に固定的に発生します。工事期間中の大型車両と道路の負担。住民説明会や相談対応という行政コスト。防災上の備え。窓のない大きな街区がまちにもたらす分断。そして稼働後の騒音・排熱への対応。これらは都にも、他の22区にも及びません。計画地の周囲数百メートルと、江東区の行政に降りかかります。

印西市が歓迎できる理由、江東区が歓迎できない理由

この構造の意味は、23区の外と比べるとはっきりします。

千葉県印西市は「データセンター銀座」と呼ばれるほどの集積地です。印西市の固定資産税収は、平成23年度の約76億円から令和3年度には116億円超へと大きく増加し、その増加分の多くはデータセンター進出によるものとされています。市の担当者自身が、データセンターは雇用創出にはあまりつながらないとしつつ、「固定資産税が桁違いに増えたことで教育や子育て、インフラ整備などまちづくりの財源に充てている」と説明しています(令和3年度決算では、地方税約220億円のうち固定資産税が5割以上を占めるに至っています)。

つまり印西市では、負担と引き換えに、目に見える税収が市の財布に直接入る。だから市はデータセンターを誘致し、住民に対しても「まちづくりの財源になっている」と説明できる。損得の計算が、一つの自治体の中で完結しているのです。

江東区では、この計算が成立しません。同じ施設が、印西では「財源」になり、江東区では「負担」になる。違いは施設の性質ではなく、税の制度にあります。

東京都は2026年3月にデータセンターのガイドラインを公表し、立地への配慮や地域との調和の重要性を掲げました。しかしそこでは、個別の対応は区市町村が担うという整理が明記されています。この役割分担を、税の構造と重ねて見てください。調整税として税収を受け取るのは都、個別対応の負担を担うのは区。 推進の果実と、推進の負担が、制度の上で分離しているのです。

念のため付け加えれば、これは誰かが悪意で設計した構造ではありません。都区財政調整は戦後間もなくに原型ができた一般制度であり、データセンターを想定して作られたものではない。しかし、「税収は広く薄く配分され、負担は狭く濃く固定される」という新しいタイプの施設がこの制度に乗ったとき、受益と負担の分離が構造的に生じる。事業者が悪いのでも、都が悪いのでもなく、制度が想定していなかった。千石の問題を通じて私が一貫して述べてきたことと、同じ構図がここにもあります。

なお、同じ豊洲五丁目の土地にデータセンターではなくマンションが建った場合、江東区が得るもの――税収、賑わい、雇用――がどれほど違うのか。具体的な数字での比較は、稿を改めてまとめます。

「それが都区財政調整だ」という反論について

ここで、当然の反論が予想されます。

「それが都区財政調整という制度だ。江東区は交付団体であり、都心区に集積する企業活動が生む税収の再配分を受けて行政水準を維持している。受益者が制度に文句を言うのか」

この指摘は、制度の理解としては正しい。私も都区財政調整制度そのものを批判するつもりはありません。財源の偏在を調整するこの仕組みがあるからこそ、23区のどこに住んでいても標準的な行政サービスが受けられる。江東区もその恩恵の中にあります。

しかし、論点はそこではありません。都区財政調整が調整しているのは「財源」であって、「負担」ではない、ということです。

都心区のオフィスビルが生む税収を再配分しても、そのオフィスの周辺住民が騒音や排熱や危険物を受忍しているわけではありません。オフィスは、金銭化されない負担をほとんど生まない施設だからです。ところがデータセンターは、税収が23区全体に薄く溶ける一方で、騒音・排熱・非常用発電機・燃料備蓄・工事負担という金銭に換算されない負担を、立地点の数百メートル圏に固定的に落とします

そして、都区財政調整の基準財政需要額の算定項目に、この負担を測る物差しは存在しません。「大規模施設の立地に伴う住民対応」という需要は、どこにも算定されていないのです。

つまり、正確に言えばこうなります。都区財政調整は、財源の偏在を調整する制度としては機能している。しかし、負担の偏在を調整する仕組みを持っていない。オフィスと商業とマンションが土地を埋めていた時代には、この欠落は問題にならなかった。データセンターという新しい施設類型が現れて、初めて欠落が見えた。制度が悪いのではなく、制度が古いのです。

江東区はこの構造を知っている ―ごみ問題という記憶

「便益は広く薄く、負担は狭く濃く」。この構造を、江東区民は理屈ではなく歴史として知っています。

ごみです。

23区全体が排出するごみの最終処分を、江東区は夢の島以来、半世紀以上にわたって引き受けてきました。清潔で快適な都市生活という便益は都民全体に及び、収集車両の集中、悪臭、環境リスク、まちのイメージへの影響という負担は、江東区に固定されました。昭和40年代の「ごみ戦争」で当時の区が問うたのは、まさにこの不均衡でした。

重要なのは、その後の歴史です。社会はこの構造を「仕方ない」で済ませず、制度で応答しました。清掃工場の立地には環境アセスメントと住民説明の手続きが整えられ、自区内処理の原則という負担公平の思想が生まれ、施設の周辺には還元施設が整備され、最終処分を引き受ける江東区への配慮は、都区間の明示的な論点であり続けてきました。完全とは言いません。しかし少なくとも、「負担の偏在は、調整されるべきものだ」という規範が確立したのです。

データセンターは、いまどの段階にいるか。

同じ構造を持ちながら、応答はまだ何もありません。説明会を義務づける要綱が江東区にできたのが、ようやく今年です。負担への還元という発想も、立地の公平という思想も、制度のどこにもない。あえて言えば、データセンターは「ごみ問題の1960年代」にいる。

誤解のないように書いておきますが、私はデータセンターとごみ処理施設を、施設として同列に並べているのではありません。比べているのは、便益と負担の分布の構造と、それに対する制度の応答の有無です。誰もごみ処理を不要とは言わなかった。それでも負担の偏在は調整の対象になった。データセンターも不要ではない。むしろ不可欠です。だからこそ、同じ規範が適用されるべきだ、ということです。

なぜデータセンターは江東区に集まるのか

もう一つ、確認しておくべきことがあります。千石に続いて豊洲。これは偶然ではありません。

ごみが江東区に来たのは、埋立地という「まだ用途の固定されていない土地」がそこにあったからでした。データセンターも同じです。事業者が求めるのは、大規模な床面積を確保でき、電力を引き込め、都心に近い土地。準工業地域の遊休地、駐車場、工場やビルの跡地。この条件で首都圏の地図を眺めれば、市場の力学は自動的に湾岸と城東に――江東区に行き着きます。千石の計画地は駐車場でした。豊洲五丁目の計画地はビルの解体跡地です。

つまり、開発余地が残っていることそのものが、データセンターを呼び込む。そして現行制度の下では、その土地に何が建つかを決めるのは、地価と容積率と事業者の投資判断だけです。その土地がまちの何になるべきか――住宅か、公園か、商業か――という地域の意思を差し挟む場所は、制度上ほとんどありません。準工業地域だから建てられる。一般建築物だから特別な審査もない。

開発余地は、本来まちの将来の選択肢です。しかし審査の制度がなければ、それは無防備さとして機能する。千石と豊洲は2例目ですが、同じ条件を満たす土地は区内にまだ相当あります。これは2件で終わる話ではないと考えておくべきです。

では、どうするか

負担の偏在を調整する仕組みは、ゼロから発明する必要はありません。既存の制度の中に、手をつけられる場所があります。

第一に、都区財政調整の需要算定への反映です。大規模データセンターの立地に伴う行政需要――住民対応、説明会関連事務、道路等の負担、稼働後の環境監視――を、基準財政需要額の算定に位置づけること。都区財政調整の算定内容は、都と特別区の協議で毎年見直されており、事務の移管に応じて配分割合が変更されてきた実績もあります。金額の多寡以上に、「データセンター立地は区に固有の行政需要を生む」と制度が公式に認知すること自体に意味があります。

第二に、事業者との協定による地域への還元です。私が千石の問題で一貫して求めてきた、報告仕様の標準化・第三者検証・稼働後モニタリングの枠組みは、その中核です。稼働後の実測と公表、基準超過時の是正手順を事前に合意し、地域の生活環境を守るコストを事業の内側に組み込むこと。これは事業者にとっても、地域と共生する施設であることを示す最良の証明になります。

第三に、都の推進政策と立地自治体支援のセット化です。都がデータセンターを推進し、その税収を受け取るのであれば、個別対応を区市町村に委ねるだけでなく、立地区の負担に対する支援を推進政策の一部として設計すべきです。

私は、9月の区議会で、この受益と負担の構造を正面から取り上げるつもりです。千石での1年半で学んだことの一つは、個別の計画への対応だけでは、次の計画にはまた間に合わないということでした。豊洲の計画は、構造そのものを問うべき時が来たことを示しています。

おわりに ―「地域共生」の実質とは

私は、データセンターがAI時代に不可欠なインフラだと考えています。この立場は変わりません。

だからこそ、はっきり書いておきたいのです。ここ数年のAIの急速な進化と、それを支えるデータセンター建設のスピードに対して、地域との共生のルール作りは、まったく追いついていません。国も、都も、業界も「地域共生」を掲げるようになりました。しかし、便益を受け取る者と負担を引き受ける者が制度の上で分離したまま、その言葉だけが先行するなら、地域共生は実質を持ちません。

負担の偏在を直視し、それを調整する仕組みを作ること。 ごみ問題で社会が一度学んだはずのこの規範を、データセンターにも適用すること。それが「地域共生」の実質だと、私は考えています。

千石と豊洲は、その試金石です。


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