江東区千石データセンター ―「自治体初」の要望書、その実効性をどう確保するか
この記事のポイント
- 6月23日、江東区が日本データセンター協会(JDCC)に対し、地域住民の不安解消を求める要望書を提出しました。 自治体が業界団体にこうした要望を行うのは、報道によれば全国で初めてです。住民が声を上げ、私も議会で求めてきた「協会への働きかけ」が形になったもので、決して小さくない一歩だと受け止めています。
- ただし、要望書の6項目を千石の現場に照らすと、実際に効きうるのは「第三者による環境評価」と「稼働後の継続的な確認」に絞られます。 協会が検討するのは業界全体のガイドラインであり、千石の個別の事情を協会が見てくれるわけではありません。それを千石の現場に効かせるのは、協会ではなく区の仕事です。
- 要望書を提出したことで終わりではなく、その実効性をどう確保するかが、最大の課題です。 6月25日の防災・まちづくり対策特別委員会で私が質したところ、区は「協会任せにはしない」としつつも、いつまでに何を実現するのか、具体的な時間軸は示せませんでした。要望書の提出はゴールではなく、スタートです。区が結果まで責任を持って関与し続けられるか――ここからが本番です。
区が、日本データセンター協会に要望書を提出した
6月23日、大久保区長が日本データセンター協会(JDCC)を訪問し、増永事務局長に要望書を手渡しました。データセンターの排熱や騒音など、住民の暮らしへの影響を懸念する声を背景に、協会として責任ある対応を求めるものです。報道によれば、自治体が業界団体にこうした要望を行うのは、全国で初めてだとされています。
要望は、次の6項目です。
- 立地検討段階における自治体への連絡・報告の徹底
- 立地検討段階における近隣住民への周知の徹底
- 情報公開の徹底及び第三者による環境評価の導入
- 運用時における環境配慮事項に係る継続的な確認及び評価の実施
- 近隣住民との継続的な対話・苦情対応体制の整備
- 災害時の対応及び地域貢献の明確化

このうち、第3項の「第三者による環境評価の導入」と、第4項の「運用時における継続的な確認及び評価」は、私がこの問題に取り組み始めて以来、一貫して必要性を訴えてきた、第三者検証と稼働後モニタリングそのものです。 これらが要望書に明記されたことは、住民の安心にとって、重要な意味を持ちます。
なぜ、区が「協会への働きかけ」に踏み出したのか
そもそも、なぜ区が、自ら事業者を規制するのではなく、業界団体である協会に要望するという形を取ったのか。前回の記事でも触れましたが、改めて整理します。
データセンターの環境影響については、国が統一的な基準やルールをまだ整備していません。その中で、基礎自治体である区が独自に踏み込んだ規制を設けることには、法制度上の難しさが伴います。国による制度づくりを待っていては、着工が目前に迫る千石には間に合わない。
では、いま現実に動かせるものは何か。そう考えたとき、業界全体を束ねる協会を通じて、ガイドラインを実効性あるものにしていく、という経路が浮かび上がります。事業者は、協会のガイドラインに沿っていることを、自らの計画の正当性の根拠として掲げています。だからこそ、そのガイドラインが実のあるものになれば、事業者の対応を変える力になる。 これが、私が一般質問で「協会への働きかけ」を求め、区がそれを要望書という形で実行に移した、その背景にある考え方です。
要望書の6項目は、千石に何をもたらすのか
私は、協会への働きかけを、万能の解決策として提案したわけではありません。国も東京都も、そして区も、直接の規制に踏み込めない中で、いま現実に事業者を動かしうる、ほぼ唯一の経路だからこそ、提案しました。だからこそ、その経路が千石に何をもたらし、何をもたらさないのか。楽観も悲観もなく、冷静に見極める責任が、提案した私にはあると考えています。
要望書が提出された以上、まず確かめるべきは、その中身です。6項目を、千石の現場に照らして見てみます。
①立地検討段階における自治体への連絡・報告
②立地検討段階における近隣住民への周知。
この2項目は、計画のごく初期の段階で連絡や周知を行うことを求めるものです。これから新たに計画される案件には有効でしょう。しかし、すでに計画が確定し、着工が目前に迫る千石には、時間的に適用されません。住民の皆さんが最も理不尽に感じてこられた「初期段階できちんと知らされなかった」という問題は、残念ながら、この2項目では取り返せません。
③情報公開の徹底及び第三者による環境評価の導入
④運用時における継続的な確認及び評価。
この2項目は、千石にも効きうる項目です。第三者による環境評価も、稼働後の継続的な確認も、これから実施する余地がある。そして、これこそ私が一貫して求めてきた、第三者検証と稼働後モニタリングそのものです。協会のガイドラインがここを実のあるものにすれば、千石にとっても意味を持ちます。
⑤近隣住民との継続的な対話・苦情対応体制
⑥災害時の対応及び地域貢献の明確化。
窓口や体制が整うことは、ないよりは良いことです。ただ、住民が本当に求めているのは、対話の窓口そのものではなく、実害が防がれ、軽減されることです。
こうして見ると、千石の現場に実際に効きうるのは、③と④に絞られてきます。
「千石に効かせる」のは、協会ではなく区の仕事
ここで、見落としてはならないことがあります。協会が検討するのは、あくまで業界全体に向けたガイドラインであり、千石という個別の現場の事情を、協会が考えてくれるわけではありません。 協会は、区の要望を受けて、業界一般のルールをどうするかを議論する。その先で、出来上がったガイドラインを、千石の現場にどう当てはめ、どう実効性を持たせるか――その作業は、協会の仕事ではなく、区の仕事です。
実際、区議会に提出され、審査されている陳情は、いずれも「千石三丁目の」データセンター計画に関するものです。住民の皆さんが声を上げているのは、データセンター一般の話ではなく、いま目の前で進む、千石の、この計画です。
その千石の問題が問われているときに、区の対応が「全国の自治体に共通する課題への問題提起」という一般論にとどまるのであれば、住民が求めているものとの間に、距離があるのではないでしょうか。全国に向けた問題提起の意義を、否定はしません。しかし、私が見ているのは、千石の現場です。
「提出して終わり」にしないために ―委員会で問うたこと
要望書を提出したこと自体は、評価しています。住民の皆さんが陳情などを通じて粘り強く声を上げ、私もそれを議会で取り上げて区に働きかけ、区がそれを受けて、自治体として全国で初めて協会に要望を行った。住民の声が、議会を通じて、行政を動かした。これまで区が直接の規制には踏み込めずにきたことを思えば、決して小さくない一歩です。
しかし、ここで満足してはいけません。要望書は、あくまで区から協会への「お願い」であり、それ自体が事業者を直接縛る効力を持つわけではありません。実際に実効性を担うのは、この要望を受けて、協会がガイドラインをどう改定し、どう運用していくか、という点にあります。
そこで、6月25日の防災・まちづくり対策特別委員会で、私は区に対し、三点を質しました。
第一に、実効性をもたらす道筋です。 今回の要望が、最終的に千石をはじめとする現場に、どのような道筋で実効性をもたらすと区は考えているのか。
第二に、時間軸と成果です。 協会への要望を、いつまでに、どこまでの成果につなげようとしているのか。要望書提出の際、協会側からは「業界全体を指導していきたい」という趣旨の発言がありました。前向きな姿勢ではありますが、いつまでに、何を、という具体的な時間軸は、まだ示されていません。
第三に、協会任せにしない担保です。 協会は全国の事業者を束ねる団体であり、千石のような個別の現場に、迅速かつ具体的に動くとは限りません。協会の対応が進まない場合、区はどう実効性を担保するのか。
区の答弁は、時間軸を示せなかった
これらに対し、区からは、「協会に要望して終わりではない」「6項目について、事業者に対しても直接、求めていく」「事業者に働きかけながら、協会とも連携・協議していく」との答弁がありました。協会任せにせず、事業者にも直接働きかけるという姿勢を示した点は、評価します。
一方で、最も重要な「いつまでに」という時間軸については、区は明確な答えを示しませんでした。 協会は全国を統括する立場であり、国の動向も見ながらになるため「時間軸は変わってくるかもしれない」という趣旨の答弁にとどまりました。
しかし、ここでもまた、話が全国の業界の動向へと広がっていきます。協会が全国を見て、国の動きも見て、となれば、時間軸が曖昧になるのは、ある意味で当然です。けれども、繰り返しになりますが、いま区議会に陳情が出され、住民が解決を求めているのは、「千石の」計画です。その千石では、日々、工事が進み、着工が近づいている。全国の業界の動向に時間軸を委ねている間にも、千石の現場の時間は、待ってはくれません。
この点を、私は委員会で強く申し上げました。「協会次第なので時期はわからない」というのでは、不安を抱える住民にとって、答えになりません。どこかで具体的な線を引いて、いつまでに何を実現するのかを、区として明確にしながら取り組むべきです。
「要望書を出した」で終わっていないか
ここで、住民の皆さんが抱くであろう率直な思いも、書いておきたいと思います。要望書が出されたとはいえ、「では、これで千石の状況は本当に変わるのか」という不安は、なお残るのではないでしょうか。要望書の提出が報じられても、目の前の計画はそのまま進んでいるように見える。その実感からくる疑問は、当然のものだと思います。
要望書提出に先立つ報道機関のインタビューで、区長は、データセンターの規制について「ないない尽くしの中で、区が規制をかけると、訴訟を起こされた際に耐えられない。区として試行錯誤するしかなかった」と語り、協会に対して「実効性のあるガイドラインにしてほしい」と述べています。区が直接の規制に踏み込むことには訴訟リスクがあるため避け、実効性は協会のガイドラインに委ねる、という考え方です。
私は、協会への働きかけという方向性そのものは、間違っていないと考えています。だからこそ、一般質問で求めました。問題は、「要望書を出したこと」で区の役割が終わったかのように整理されてしまうことです。住民にとって意味があるのは、要望書が出たことではなく、それによって現場の生活環境が実際に守られることです。要望書の提出はゴールではなく、スタートにすぎません。 結果が出るまで、区が当事者として関与し続けられるかどうか。そこが問われています。
「協会か、区か」ではない ―両方が必要だ
最後に、委員会で私が強く要望したことを記します。
協会への働きかけと、区が自らの要綱などで対応を進めることは、二者択一ではありません。 事業者は、協会のガイドラインだけでなく、区の指導要綱との整合性をも、自らの計画の正当性の根拠として示しています。であれば、区が自らの要綱を実効性あるものにしていくことも、事業者に対して直接の効果を持つはずです。
先の一般質問で、区は、要綱の改定などの踏み込んだ対応について「慎重な検討が必要」という後ろ向きな姿勢を示しました。私は、その姿勢を改めるべきだと考えています。なぜなら、協会への働きかけが、千石の現場に具体的な実効性をもたらすかどうかは、現時点では不確実だからです。
協会は全国の事業者を束ねる立場で、個別の現場にどこまで踏み込むかは見通せません。協会への働きかけが十分な成果につながらなかったとき、区の手元に何も残らない、という事態は避けなければなりません。 だからこそ、区は協会任せにするのではなく、区として何ができるかを最後まで考え、取り組みを続けるべきです。
協会への働きかけは重要な一歩です。それと並行して、区自身ができる対応についても、歩みを止めずに進めていただきたい。私は、そう強く求めました。
自治体初の要望書という一手を、住民の生活環境を守る実効性へとつなげられるかどうか。ここからが、本当の正念場です。引き続き、その進捗を厳しく見守り、必要なことを求めてまいります。