江東区議会議員 中島雄太郎

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人口増加23区一の江東区で、病床は足りるのか ―急増する街が抱える医療の構造問題

この記事のポイント

2026年第二回江東区議会定例会の一般質問で、私は「人口増加23区トップ」という本区の活力が、医療提供体制という足元の基盤とどう向き合うべきかを取り上げました。議会での質疑を踏まえ、この問題の構造を区民の皆様にご報告します。

  • 江東区は人口増加数が東京23区で最も多い。だがその活力の裏で、本区の病床数は23区の平均を下回り、医療資源は手薄な圏域にある。
  • いま湾岸部に集中する若い子育て世代(有明は高齢化率6.1%、区平均20.7%)が一斉に高齢化したとき、医療需要は急変する。その未来は、すでに高齢化率29.9%に達した同じ湾岸の辰巳に、現実として存在している。
  • ところが区は、将来の医療需要を独自に推計していない。推計なしに「決定権は都にある」と構えれば、それは事実上の都への丸投げになる。区が独自の将来像を描き、都に提示して医療計画に反映させるよう求めた。

先般公表された国勢調査の速報で、前回調査からの人口増加数が東京23区で最も多かったのは、私たちの江東区でした。区民は今なお増え続けています。これは本区の活力の表れであり、誇るべきことです。

しかし同時に、この数字は私たちに一つの問いを突きつけます。急増する区民の暮らしを、社会の基盤は支えきれるのか。その基盤の一つが、医療です。

「若い街」だからこそ見えにくい、時間差の問題

本区の人口10万人当たりの病床数は、23区の平均を下回っています。本区が属する区東部医療圏(江東区・墨田区・江戸川区)は、三区いずれもが平均以下という、医療資源の手薄な圏域です。

ここで難しいのは、この問題が「今すぐ困る」形では現れにくいことです。今まさに人口が増えているのは、湾岸部を中心とした、若い子育て世代です。

それが、どれほど極端な集中なのか。区の統計(住民基本台帳、令和8年1月)で見てみます。有明では、住民の高齢化率(65歳以上の割合)が、わずか6.1%。区全体の高齢化率20.7%の、3分の1以下です。一方で、30歳から44歳までの子育て世代が住民の30.6%――およそ3人に1人を占めます。豊洲や東雲も、高齢化率は12%前後と、区平均の半分強にとどまります。

つまり今、湾岸の新しい街には、医療をあまり必要としない若い世代が、極端なまでに集中しているのです。だからこそ、医療需要の逼迫は、数字の上ではまだ見えてきません。

しかし、この世代は、必ず歳を取ります。同じ時期に、まとまって入居した街は、同じ時期に、まとまって高齢化を迎える。そのとき、医療需要は質・量ともに急激に変化します。回復期や慢性期の医療、在宅療養、医療と介護の一体的な提供――必要とされる医療の種類そのものが、変わっていきます。

その未来は、すでに隣にあります。

同じ湾岸でも、古くからの住宅団地がある辰巳の高齢化率は、29.9%。区平均を上回り、有明の実に5倍近い水準です。かつて若い世代が一斉に入居した街が、年月を経て、今こうなっている。有明や豊洲が20年後、30年後に辿るかもしれない姿が、すぐ隣に、現実として存在しているのです。

同じ湾岸でも、高齢化率はこれだけ違う
有明 6.1% ⇄ 辰巳 29.9%。若い街区が辿る未来が、すぐ隣にある。
有明6.1%、東雲12.0%、豊洲12.8%、区平均20.7%、辰巳29.9%

高齢化率=65歳以上の割合。出所:江東区「町丁、年齢、男女別人口」(住民基本台帳、令和8年1月1日現在)より作成。

これは江東区だけの話ではありません。全国で、人口が急増した地域、若い世代が集中して流入した地域が、同じ時間差の構造を抱えています。問われているのは、この変化を行政が見通し、先んじて備えているか、ということです。

病院は「区の計画の外」に置かれてきた

今回、私が議会で問いたかったのは、行政の関与のあり方そのものでした。

特別養護老人ホームや保育施設のように、公共性の高い施設については、区が需給を把握し、計画を立て、整備に取り組んでいます。ところが病院は、その多くが民間によって担われているがゆえに、区の計画の外に置かれ、地域に病床が足りているのか否かという議論すら、十分にはなされてこなかったのではないか。

しかし、地域の医療提供体制が区民の生命と生活に直結することは、その担い手が公立であろうと民間であろうと、何ら変わりません。医療提供体制の確保は、民間任せにしてよい問題ではなく、区民生活を支えるために区が主体的に関与すべき課題ではないか。これが、今回の質問の根にある問題意識です。

20年後、病床は足りるのか。それを、誰も計算していない

ここで、最も重く受け止めた事実を申し上げます。区は、人口動態を踏まえた将来の医療需要について、独自の推計を行っていない。答弁の中で、そう明らかになりました。

これは、なぜ問題なのか。

考えてみれば、当たり前のことです。有明や豊洲の若い世代が一斉に高齢化したとき、いま23区平均を下回る病床数で、急増する医療需要を受け止められるのか。私は、おそらく足りなくなる、と危惧しています。

しかし、本当に怖いのは、「足りなくなるかもしれない」ことそのものではありません。足りるのか、足りないのか、それすら今は誰も計算していない、ということです。

足りないと分かっていれば、今から備えられます。病床を増やすよう都に働きかける、医療機関の誘致を考える、手の打ちようがある。ところが推計がなければ、足りないという事実に気づくのは、「実際に足りなくなったとき」になってしまう。そして病床は、都の医療計画の中で、年単位の時間をかけて配分されるものです。足りないと気づいてから動いたのでは、もう間に合いません。

推計がない、ということは、つまりそういうことです。手遅れになる瞬間まで、問題が見えないということなのです。

そして江東区は、その推計を持たないことのリスクが、とりわけ大きい自治体です。一般的な街であれば、全国平均的な高齢化のモデルから、ある程度は需要を見通せるかもしれません。しかし、有明の高齢化率6.1%と辰巳の29.9%が同じ区内に同居しているように、本区の人口構成は、地区ごとに極端な偏りを抱えています。この街の医療需要は、全国平均とは異なる、急激かつ特異なカーブを描きます。特異な街ほど、その街に固有の将来像を、独自に推計しなければ見通せない。ところが、その最も推計を必要とする街が、今、独自の推計を持っていないのです。

「状況把握」で止めれば、都への丸投げになる

区の答弁には、もう一つ重要な一節がありました。病床数は、東京都が国の定める計算式によって基準病床数を算定し、配分する――そう答弁されています。

しかし、全国一律の計算式は、江東区の特異性を捉えません。湾岸部に若い世代が集中し、その層が一斉に高齢化していくという、この街固有の需要曲線は、全国共通のモデルからはこぼれ落ちます。

だからこそ、区がやるべきことは、状況把握にとどまりません。区が独自に将来需要を推計し、その数字を都に主体的に提示し、医療計画の前提に組み込むよう働きかける。ここまでやってはじめて、この街の実態が計画に反映されます。

逆に言えば、区が独自の推計を持たないまま「決定権は都にある」と構えていては、それは事実上、都への丸投げになります。江東区の未来を最もよく見通せるのは区であるはずなのに、その将来像を描かず、全国一律の計算式に委ねてしまう。区民の生命と暮らしを支える基盤を、それでよいのか。問われているのは、その一点です。

なお、区がこの分野に主体的に関わってきた実績がないわけではありません。平成26年に開院した昭和医科大学江東豊洲病院は、南部地域の医療資源不足という課題に対応するため、区が関与し、整備・充実を図ってきた医療機関です。区が動けば、医療提供体制に関与できる。その実例は、すでにある。だからこそ、状況把握の一歩先――独自推計と、それを携えた都への働きかけ――に進むことを求めたいのです。

人口増加23区一という活力を、区民の安心につなげるために

本区が属する区東部医療圏は、基準病床数に対して既存病床数がなお下回っており、制度上、病床を増やす余地は残されています。働きかける余地は、ある。足りないのは、その働きかけを支える「この街固有の将来像」です。

病床数の決定権は都にあります。だからこそ、区民の医療需要の変化を最も具体的に把握し得る現場――区が、独自の将来推計という根拠を手に、都の医療計画や地域医療構想の議論に能動的に臨むことが欠かせません。決定権が都にあることを理由に傍観すれば、誰も声を上げないまま、不足が現実になりかねないからです。

人口増加23区トップという本区の活力を、区民の安心につなげられるか否かは、急増する人口を支える社会基盤を、行政が先んじて備えられるかにかかっています。医療は、その最たるものです。区が、この街の未来を自らの手で数字に描き、それを携えて都に臨み、主体的に向き合うことを求めてまいります。引き続き、注視してまいります。

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