江東区千石データセンター計画 ―「準工業地域だから自己責任」「害はない」は本当か?寄せられた疑問に答える
先日公開した「なぜ都心の住宅地・江東区千石で大規模データセンター計画が進められているのか」という記事に対し、X上で非常に多くの反応をいただきました。記事のポスト自体が22万ビューを超え、賛否を含むさまざまなご意見が寄せられています。
いただいた意見の中には、記事の論点を正確に捉えたうえでの批判もあれば、記事が扱っていない前提に基づくものもあります。いずれも、この問題を考えるうえで重要な視点を含んでいます。
この記事では、寄せられた主な意見をいくつかのカテゴリーに整理し、それぞれについて私の考えをお伝えします。
「準工業地域に住んだのだから自己責任」という意見
最も多かった反応がこの類型です。
「準工業地域だらけの用途指定のところに住んだ人間はこれ含みで割安で買ったんでしょ」「第一種住居地域に設定すればいい。準工業地域に住ませておいてその文句はない」「住宅地に近いのではなく、大型施設を建てられる土地の近辺に住民が住んでいるのを考えるべき」といった趣旨のものです。
この意見には、二つの重要な事実認識の誤りがあります。
第一に、準工業地域は「住んではいけない場所」ではありません。 準工業地域は、都市計画法上、住居・商業・工業の混在を前提とした用途地域です。学校も保育園も病院も建てられます。マンションの建設も認められています。
「準工業地域に住む」という選択は、制度が正面から認めている行為であり、そこに住んだこと自体がリスクの引き受けだという議論は、制度の趣旨に反します。
第二に、準工業地域が想定していた「工業」と、大規模データセンターは性質が異なります。 準工業地域の制度設計は、比較的軽微な工業と住居の共存を念頭に置いています。24時間365日稼働し、大量の排熱を発生させ、低周波騒音を出し続け、120万リットルの重油を備蓄する大規模データセンターは、この制度が設計された時点では存在しなかった施設です。
「準工業地域だから何でも建てられて当然」ではなく、「準工業地域の想定を超える施設が出現した」というのが正確な問題認識です。

したがって、この問題は「住民の自己責任」ではなく、「制度が新しい施設に追いついていない」ことの帰結です。それを住民に転嫁する議論は、制度設計の不備を覆い隠すことになります。
なお、「用途地域を変更すればいい」「準工業地域にマンションを建てるのをやめたらどうか」という意見もありました。用途地域の変更は確かに一つの手段ですが、都市計画決定の手続きが必要であり、既に住んでいる人々の財産権にも影響する極めて大きな政策判断です。
個別のデータセンター計画に対して用途地域変更で対処するのは現実的ではなく、データセンター特有のリスクに対応する新たな制度的枠組み(ガイドラインや指導要綱等)を整備する方が合理的です。
「データセンターは大した害がない」という意見
「騒音も排ガスも出さないし、物流倉庫や工場に比べたら良い。電力供給が安定するし地元貢献もある」「排熱なんて夏の東京なら日光の方が圧倒的に大きくて誤差レベル」「健康に影響するような害が出た実例がどのくらいあるのか。爆発するようなものでもない」といった趣旨の意見です。
この意見には一定の合理性があります。データセンターは工場のように排ガスを出すわけではなく、トラックの出入りも物流倉庫ほどではありません。その意味で、従来型の工業施設と単純に同列に論じるべきではない、という指摘は正しいです。
しかし、「大した害がない」と断言できる根拠が現時点で存在しないことこそが、問題の本質です。
排熱について言えば、「日光に比べれば誤差」という議論は、面的な気温上昇の話と、特定の設備から継続的に排出される熱の話を混同しています。
千石のデータセンターの排熱は、サーバー群を冷却するための大量の空調室外機から発生するものです。問題になるのは周辺の平均気温ではなく、これらの空調室外機から24時間365日排出され続ける熱が、近隣住宅の生活環境にどう影響するかです。
低周波騒音については、通常のデシベル値では測定しにくい性質のものであり、長期的な曝露による健康影響は十分に研究が進んでいません。「今のところ実害が報告されていない」ことと「実害がない」ことは、同じではありません。
さらに、説明会で最も強い懸念が寄せられているのが、非常用発電機と120万リットル(学校の25mプール約3杯分)の重油備蓄の問題です。
本計画では、災害等による停電時に非常用発電機を最大約6日間にわたってフル稼働させることを想定しています。そしてその間、重油を燃焼させた排煙は屋上から排出され続ける設計です。
つまり、120万リットルの重油備蓄は「置いてあるだけ」の問題ではありません。地震や台風などで停電が発生したとき――すなわち住民自身も被災し、窓を閉め切れない状況や、避難生活を余儀なくされる可能性がある状況で――大型の発電機が6日間連続で稼働し、その騒音と重油の排煙が住宅地のすぐ隣で発生し続けるということです。重油の排煙には硫黄酸化物や粒子状物質が含まれ、長時間の曝露は健康への影響が懸念されます。

備蓄そのものの安全管理リスクに加え、それが使用される事態もまた、住民の生活環境に深刻な影響を及ぼし得る。住民が強い不安を抱くのは、感情的な過剰反応ではなく、具体的な設計に基づく合理的な懸念です。
「爆発するようなものでもない」という感覚は理解できますが、この施設のリスクは爆発だけではありません。
繰り返しますが、私は「データセンターは危険だ」と主張しているわけではありません。「危険かどうかを判断するための情報と仕組みが、現時点では不十分だ」 と言っています。害がないなら、そのことを具体的なデータと第三者検証で示すべきです。それができていないことが問題なのです。
「住民の過剰反応だ」「安全と安心を混同している」という意見
「また安全より安心みたいなお気持ち寄り添い議論か」「住民が求めているのは100%安全の証明でしょ」「リスクを取って負けただけの話」といった趣旨の意見です。
この反応が出ること自体は予想していましたし、理解もできます。原発やその他のインフラ問題で繰り返されてきた「安全と安心」の議論を想起するのは自然です。
ただし、私の記事が求めているものを正確に読んでいただければ、これがいわゆる「お気持ち」の話ではないことがわかるはずです。
記事で明確に書いた通り、住民が求めているのは「100%安全の証明」ではありません。 不確実性があるなら、それをどう測定し、どう監視し、問題が生じたときにどう是正し、誰が責任を持つのか。そのプロセスを示すことを求めています。
これは「安心してほしい」という感情論ではなく、リスクガバナンスの問題です。不確実性の管理は、原子力でも化学プラントでも金融規制でも、あらゆるリスクを伴う事業で当然に求められるものです。データセンターだけがそこから免除される理由はありません。
そして、現在の説明会で起きているのは「安全の証明を求めて拒否されている」のではなく、「生活影響に関する基本的な質問に対して、制度的に応答できる仕組みがない」という構造的な問題です。住民の態度の問題ではなく、制度設計の問題です。
「行政の用途地域管理の怠慢だ」という意見
「用途地域を放置していた江東区行政の怠慢ではないか」という指摘がありました。
これは、一定程度正しいと考えています。
江東区には準工業地域が広く分布しており、その中に住宅が多数存在する状態が長年続いてきました。この混在状態に対して、用途地域の見直しや、地区計画等によるきめ細かな規制を行ってこなかったことは、今回の問題の遠因の一つと言えます。
ただし、用途地域の変更は、区だけの判断で直ちに決められるものではなく、都市計画審議会等の手続や都との協議、関係権利者への影響整理が必要になるため、簡単に実施できるものではありません。
また、より本質的な問題は、用途地域を変更していたとしても、データセンター特有のリスクに対応できたかどうかは別だということです。大規模データセンターは従来の用途地域制度が想定していなかった施設であり、用途地域の問題だけでは解決しない新しい制度的課題が存在しています。
とはいえ、この指摘が突きつけているのは、行政が事後的に対応するだけでなく、都市構造の変化を予見して先手を打つべきだという点です。この問題意識には強く共感します。
「既存のデータセンターで実害はあるのか」という意見
「実際に運営されているデータセンターで、記載されているような懸念が現実化しているかではないか。もっと顕在化させるべき」という趣旨の意見です。
これは、いただいた意見の中で最も重要な問いの一つです。
関連して、「都心にも既にデータセンターはあるが、こんな議論にはなっていない」という指摘もありました。これも重要な論点なので、正確に整理しておきます。
確かに、都心部にも既にデータセンターは存在します。しかし、その多くは通常のオフィスビルをデータセンター用途にも対応できるようにした施設であり、オフィスとサーバールームが混在しているようなビルです。外観も運用も、周辺から見ればオフィスビルと大きく変わりません。
千石の計画は、これとはまったく性質が異なります。建物全体がデータセンターに特化した大規模施設であり、大量の空調設備、非常用発電機、120万リットルの重油備蓄を備え、24時間365日無人で稼働し続けることを前提に設計されています。オフィスビル併設型のデータセンターと、DC特化の大規模施設では、排熱量も騒音レベルも周辺への影響も根本的に異なります。
つまり、「既存のDCで問題が起きていないから千石も大丈夫」という比較は、比較対象が違うのです。千石のような都心住宅地に隣接するDC特化型の大規模施設は、都心においてはほぼ前例がありません。
率直に言って、都心住宅地に隣接する大規模データセンターの稼働実績から得られた体系的なデータは、日本ではほとんど公開されていません。
だからこそ、「既存DCで害が出ていないから大丈夫」という議論も、「前例がないから危険だ」という議論も、どちらも根拠が不十分なのです。
私がブログ記事で一貫して求めてきたのは、まさにこの空白を埋める仕組みです。第三者による測定・検証、稼働後のモニタリング、問題が判明した場合の是正措置。これらは「データセンターは危険だ」という前提から求めているのではなく、「判断するためのデータが不足している」という現実から求めているものです。
千石の計画が実現すれば、都心住宅地隣接型の大規模データセンターとして、事実上の先例となります。だからこそ、その先例が適切なモニタリングと検証の仕組みを備えたものであることが、千石の住民だけでなく、今後同様の計画が進む全国の地域にとっても重要です。
最後に
多くのご意見をいただいたことに感謝しています。賛否を問わず、これだけ多くの方がこの問題に関心を寄せてくださっていることは、この問題が一地域のローカルな紛争ではなく、日本の都市政策の課題として広く認識され始めていることの表れだと受け止めています。
私は引き続き、千石の説明会に参加し、区議会の場で制度の改善を求め、必要な行動を取っていきます。
今後も、この問題の進展についてはブログでお伝えしていきます。