江東区議会議員|中島雄太郎

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江東区千石データセンター計画 ―区の要綱は誰を守っているのか

事業者は要綱を盾にし、行政は現場にいない。説明会の構造的な問題を整理する

2月22日の説明会で起きたこと

2月22日、千石3丁目データセンター建設計画の住民説明会(振替説明会)が開催されました。本計画をめぐる説明会は、通常説明会(2月6日・8日)、専門的説明会(2月12日・14日)、振替説明会(2月21日・22日)と、これまでに計6回開催されており、私はこのうち4回に参加しています。

この日の説明会で印象的だったのは、住民の怒りの矛先が、回を重ねるごとに変化していたことです。

初回の説明会では、住民の不満は主に事業者に向いていました。130項目の質問状を1年間放置したこと、再三の住民の要望にもかかわらずマスコミの取材を拒否したこと。「なぜ誠実に答えないのか」という怒りです。

ところが2月22日の時点では、空気に変化が見られました。

住民が災害時の重油流出リスクについて「首都直下地震で5m浸水した場合、地下の120万リットルの重油タンクが破損・流出したらどうなるのか」と問いかけたのに対し、事業者は「コンクリート躯体で囲っており外部流出はしない設計」と繰り返す一方で、詳細なシミュレーションや想定範囲の提示は拒否しました。

運用体制について「災害時の具体的な運用計画や保証体制が決まっていない中で『安全だ』と繰り返すのは不誠実だ」と指摘されると、事業者は「運用計画は今後(3年間の開発期間中に)策定する。万が一の保証については、因果関係を確認した上で法令に基づき対応する」と答えました。

こうしたやりとりの中で、事業者側から繰り返し発せられたのが「江東区の指導要綱に従って対応しています」という言葉でした。

この言葉が繰り返されるほど、住民の間にある認識が広がっていることを確認できました。会場のあちこちから「結局、江東区が悪いんじゃないか」というつぶやきが漏れているのです。

事業者がこの程度の説明で済むのは、要綱がそれしか求めていないからではないか。こんな要綱を作った区の方が問題なのではないか――そういう認識です。

要綱が「盾」になる構造

この現象は偶然ではありません。制度の設計上、必然的に起きることです。

事業者にとって、要綱は「この要件を満たせば義務は果たした」という防御線です。要綱が求めているのが「説明会を開催し、住民に計画の概要を説明すること」であるならば、事業者はそれを実行すれば手続き上の責任を果たしたことになります。

住民がどれだけ生活影響への不安を訴えても、要綱がそれに対する具体的な応答の仕組みを持っていなければ、事業者は「要綱の範囲を超える」として対応を拒むことができます。

つまり、要綱の要求水準が低ければ低いほど、事業者の「盾」は強固になる。住民の問いに答えない説明会であっても、要綱上は「開催した」という事実で完了する。

住民を守るために作られたはずの制度が、住民との対話を遮断するための根拠として機能している。これが、2月22日の説明会で起きていたことの構造です。

制度を作った行政が、現場を見ていない

この構造を一層深刻にしているのが、要綱を作った江東区の所管部署が説明会に出席していないという事実です。

これは推測ではありません。2月14日の説明会で住民が「江東区の担当部門の人など、公正な立場で判断ができる方を入れた上で説明を行って下さい」と要望したのに対し、事業者は「江東区に問い合わせた結果、説明会への参加はしないとのご回答でした」と書面で回答しています。

つまり、区は自らが制定した要綱に基づいて開催される説明会に、出席しないという判断を能動的に下しています。

この不在がもたらす問題は、複数の層にわたります。

第一に、要綱の実効性を誰も検証していないということです。 要綱を作った所管が現場を見ていなければ、「説明会を開催した」という形式的な報告だけが行政に上がります。

その説明会が住民の問いに応答できていたか、事業者が要綱の趣旨に沿った説明を行っていたか、要綱そのものに不足がなかったか。こうした実質的な評価は、誰によっても行われません。

第二に、要綱の解釈権が事業者に独占されるということです。 事業者が「要綱に従って」と説明するたびに、その解釈が正しいかを検証する主体が会場にいません。

住民が「それは要綱の趣旨と違うのではないか」と異議を唱えても、その場で確認できる行政職員がいない。結果として、事業者による要綱の自己解釈が、そのまま運用の実態になっています。

第三に、区議会によるチェック機能が構造的に弱体化するということです。 私はこれまでの計6回の説明会のうち4回に参加し、現場で何が起きているかを確認してきました。今後、区議会の建設委員会等でこの問題を取り上げ、要綱の運用実態を問うことになります。

しかし、所管が説明会に出席していなければ、区は説明会で何が起きたかについて一次情報を持っていません。私が「現場ではこういう状態だった」と指摘しても、区側は「確認します」「事業者に聞きます」としか答えられない。これでは、議会での実質的な審議が成り立ちません。

これは私個人の問題ではありません。仮に他の会派の議員がこの問題に関心を持って質問しようとしても、同じ壁にぶつかります。所管が現場を見ていない以上、議会全体のチェック機能が制度的に骨抜きになるのです。

2月12日の説明会が示した「要綱の不在」

要綱に第三者検証や報告仕様の設計が組み込まれていれば防げたはずの問題は、すでに具体的な形で現れています。

2月12日の専門的説明会では、住民から「1年前に提出した質問状で指摘した非常用発電機の騒音について、今回の資料に一切データがない」と追及されました。非常用発電機は、災害時に大型のディーゼル発電機が住宅地のすぐ隣で稼働するものであり、住民にとって最も切実な懸念の一つです。

事業者は「今回は日常稼働する室外機の法規制上の説明を優先した」と釈明し、非常用発電機の影響については「2月末までに書面で回答する」と先送りにしました。

つまり、住民が1年前から懸念を示していた最重要論点の一つが、説明会の資料から丸ごと抜け落ちていたのです。

排熱シミュレーションについても、住民から「南風2m/sだけでなく、より悪条件での検証を行うべきだ」と指摘されましたが、事業者は「追加検証を行うかは持ち帰って検討する」にとどまりました。

これらはいずれも、専門家が事業者の資料や報告内容を事前にチェックする仕組みがあれば、説明会の場で紛糾する前に是正できたはずの問題です。

制度設計の段階で、この問題は見えていた

実は、この構造的な問題は予見されていました。

私は昨年12月5日の区議会建設委員会で、要綱案が提示された際に、3つの問題提起を行っています。

住民が知りたいのは生活影響であること、報告の仕様を行政側が設計すべきであること、専門家を入れなければ実効性がないこと。当時の答弁は「基準がないので難しい」「事業者が条件を設定してシミュレーションする」というものでした。

2025年12月5日区議会建設委員会議事録(抜粋)

その指摘が反映されないまま要綱は策定され、そしていま、まさにその指摘通りのことが目の前で起きています。

非常用発電機の騒音データの欠落。シミュレーション前提条件の甘さ。これらはすべて、第三者検証の仕組みが要綱に組み込まれていれば、説明会の場で住民が指摘する前に是正できた問題です。

そして、区の所管がその説明会に出席すらしていなければ、これらの問題が起きたことすら、行政は把握できていない可能性があります。

問われているのは「要綱の次」の制度設計

千石のデータセンター計画は、現行の要綱が想定していた状況を明らかに超えています。

要綱が前提としていたのは、「事業者が説明会を開催し、住民に計画の概要を周知する」というプロセスです。しかし、データセンターという施設がもたらすリスクは、計画の概要を説明するだけでは評価できません。

排熱のシミュレーション前提は妥当か。騒音の測定条件は住宅地に適したものか。非常用発電機の稼働時に何が起きるか。これらの技術的な問いに対して、現在の要綱は「事業者に説明させる」以上の仕組みを持っていません。

事業者の善意や誠意に依存する制度は、機能しません。特に、事業者にとって「都心プレミアム」という強い経済合理性がある今回のような案件では、時間をかけた丁寧な合意形成よりも、手続きを速やかに完了させることに重心が置かれやすい。それは事業者の道義心の問題ではなく、制度の構造がそうさせている問題です。

私は区議会の場において、以下の方向で制度の改善を求めていきます。

第一に、行政が自ら作った制度の運用実態を検証する体制を整えること。 要綱に基づく説明会に所管が出席し、制度が設計通りに機能しているかを自ら確認すべきです。それがなければ、行政は自らの政策を評価する能力を持てず、改善も進みません。

第二に、技術的な論点について、事業者の自己評価に委ねるのではなく、第三者による検証を前提とした枠組みへと要綱を発展させること。 現在の説明会で繰り返し問題になっているシミュレーション前提条件の妥当性、測定方法の適切性、報告仕様の設計は、行政側あるいは独立した専門家が関与して初めて、住民に対する説得力を持ちます。

第三に、稼働後のモニタリングと是正措置の仕組みを視野に入れた制度設計を検討すること。 データセンターのリスクは、建設前の説明会だけで解消できるものではありません。稼働後に顕在化する影響をどう測定し、問題が判明した場合にどう是正するか。この仕組みが制度に組み込まれていなければ、説明会は「建てる前の儀式」で終わります。

制度の空洞が、不信を生んでいる

2月22日の説明会で住民の怒りが区に向かったのは、感情的な八つ当たりではありません。説明会を重ねる中で、住民は構造を理解し始めたのです。「事業者が答えないのではなく、答えなくても済む制度になっている。その制度を作ったのは区だ」と。

その認識は、正確です。

「要綱に従っています」という言葉が対話を壊すのは、事業者が不誠実だからだけではありません。要綱そのものが、住民の問いに答えるための仕組みを持っていないからです。

そして、その要綱を作った行政が運用の現場に立ち会わず、議会からの検証にも一次情報で応えられない状態が続く限り、制度の改善は進みません。

事業者の対応が住民にとって不誠実に映っていることは、説明会に参加した者として実感しています。しかし、その不誠実さもまた、要綱の不備が生んでいる面があります。

要綱がこの程度の説明で「義務を果たした」ことにしてしまう以上、事業者がそれ以上の対応に踏み込むインセンティブは構造的に働きにくい。いま必要なのは、制度の空洞を認識し、それを埋めるための具体的な仕組みを作ることです。

千石の計画が、都心住宅地隣接型の大規模データセンターとして事実上の先例になるのであれば、その先例が「制度が追いつかないまま建った施設」ではなく、「制度を進化させる契機となった施設」であるべきです。

私はそのために、引き続き説明会に参加し、区議会の場で制度の改善を求めていきます。

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