江東区千石データセンター ―要綱の限界を行政自身が認めた日
3月10日の建設委員会で、要綱の構造的問題を正面から問いました。行政側の答弁から見えてきたのは、制度の空白を認識しながらも「武器がない」と悩む行政の姿でした。
何を問うたのか
本日の建設委員会で、千石3丁目データセンター計画について質疑を行いました。
焦点は、区が昨年12月に策定した「大規模データセンターに係る建築計画の早期周知に関する指導要綱」(以下「要綱」)の構造的な問題です。
私がこの問題を追いかけてきた経緯を簡単に振り返ります。
昨年12月5日の建設委員会(発言番号126〜130)で要綱案に対して3点の問題提起を行い、今年2月には計7回の住民説明会のうち4回に参加し、その現場で見たことをブログ3本の記事で構造的に整理してきました。
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- 「準工業地域だから自己責任」「害はない」は本当か?寄せられた疑問に答える
- 江東区千石データセンター計画 ―区の要綱は誰を守っているのか
本日の質疑は、これらを踏まえて要綱の構造的問題を正面から問うものです。

第1問:所管は説明会に出席していたか
最初に事実確認をしました。「要綱の所管である建築調整課は、7回の説明会に出席しましたか」。
答弁は明確でした。「出席しておりません」。
この事実確認が、以降の質疑すべての土台になります。
第2問:要綱が「盾」になっている構造
所管が不在の説明会で何が起きているかを、現場の一次情報に基づいて説明しました。
説明会では、事業者が「江東区の指導要綱に従って対応しています」という言葉を繰り返します。
この言葉が出るたびに、住民との対話は止まります。住民が生活影響について具体的に問いかけても、要綱がそれに対する応答の仕組みを持っていないため、事業者は「要綱の範囲を超える」として対応を拒むことができる。
要綱の第1条には「良好な近隣関係を保持し、もって地域における健全な生活環境の維持及び向上に資することを目的とする」と書かれています。
しかし現場で起きていることは、この目的と正反対です。
その上で、12月の提言が反映されなかった結果として起きている具体的問題を3点指摘しました。
- 報告仕様を行政が設計していないから、住民が1年前から懸念を示していた非常用発電機の騒音データが、専門的説明会の資料から丸ごと欠落していた。事業者が自分で説明項目を選べる以上、都合の悪いデータは出てこない。
- 生活影響ベースの指標がないから、住民が騒音の実態を問うても事業者は「デシベル基準内です」としか答えない。しかし24時間365日連続で発生する音は道路騒音とは根本的に異なる。そもそもデータセンターの室外機がどういう音を出すのかの説明すらなく、サーバー群の低周波音が人体にどう影響するかも全く説明されていない。
- 第三者検証がないから、排熱シミュレーションの前提条件が南風2m/sのみという甘い設定でも、それを指摘する専門家が不在。住民が自力で問題点を発見して説明会で追及するしかない。
加えて、説明会最大のテーマである120万リットルの重油備蓄について問いました。
ガソリンスタンド10〜12か所分の重油が住宅地に隣接して地下に備蓄されることに対する生活環境影響の評価は、建築基準法にも消防法にも要綱にも制度化されていない。この制度の空白をどう認識しているか。
課長答弁:「住民にご納得いただけていないのは認識している」
建築調整課長の答弁は、要約すると以下の通りです。
- 事業者ができる限り丁寧に説明したものと考えているが、住民に納得いただけていないことは認識している。
- 説明はまだ終わっていない。90日を120日に延長したことで話し合いを重ねる時間を確保している。
- シミュレーションの風向条件を変えるべきだということも把握している。
- ただし、説明会には中立性の立場を保つという点から出席はできない。
第3問:5つの具体的要求
第2問の答弁を踏まえ、5点の要求を出しました。
- 第一に、所管が説明会に出席すること。 自ら作った制度が現場でどう機能しているかを、所管自身が確認すべきである。
- 第二に、報告仕様の策定と第三者検証の導入。 加えて、120万リットルの重油備蓄に対する生活環境影響の評価枠組みの整備。
- 第三に、「区独自のガイドライン」の方向性について。 予算審査特別委員会で答弁のあったこのガイドラインは、住民向けの解説資料と聞いている。しかし問題の本質は住民が質問できないことではなく、質問しても事業者が答えなくて済む要綱の構造にある。必要なのは住民側の資料ではなく、事業者に対する報告要求水準を定める制度の整備ではないか。
- 第四に、稼働後のモニタリングと是正措置の仕組み。 過去の公害問題を振り返れば、建設時に合法であった施設が稼働後に社会問題化した例は数多くある。「建設時点で適法だった」は将来の問題が起きないことの保証にはならない。
- 第五に、東京都が策定中のデータセンター建設ガイドラインとの連携。 江東区は都心住宅地隣接型DCの先行事例を抱える自治体として、都の制度設計に現場の知見を提供し、都のガイドラインを踏まえて区の要綱を見直すべきではないか。
課長答弁と、その先で起きたこと
課長答弁は率直なものでした。
- 学識経験者の導入は「今の時点では無理がある」。
- 環境アセスメントは「現時点では難しい」が「環境部署に伝える」。
- モニタリングについては「対応窓口を作る」「任意で測定して結果を公開する」可能性に言及。
- 都のガイドラインとは「動向を注視しながら対応する」。
しかし、この質疑で最も重要な発言は、課長のものではありませんでした。
私の質疑を受けて、複数の委員がこの問題に言及しました。
特に、区議会副議長が「中立を保つために説明会に行かなかったというのは全く見当外れだ」「住民の不安があるのだから説明会には参加すべきだ」と明言したことは、私の問題提起が個人の主張ではなく委員会としての認識に転換したことを意味します。
そして最終的に、都市整備部長が自ら答弁に立ちました。その中で部長は、こう述べています。
- 現在ある要綱は「早期周知に関する指導要綱」、つまり事業者に計画を早く周知させるための制度にすぎない。建設に対する指導要綱、すなわち事業者に建設にあたっての基準を求める制度はまだできていない。
- 「建設に対する指導要綱まではできてございませんので、ちょっと私どもそれはすごく不安になっている」
- 「私たちに武器がないのは法律や条例が改正されていないんです」
- 「ストライクゾーンというのは分からなくて今はすごく悩んでおります」
区長への手紙が100通近く届いていること、一件一件全て見ていることにも言及がありました。
何が明らかになったのか
本日の委員会で明らかになったのは、以下の3点です。
第一に、区は要綱の限界を認識しています。部長が「武器がない」と公式の場で述べたことは、現行の要綱では住民の不安に応えられないことを行政自身が認めたに等しい。
第二に、「中立性」を理由とした説明会への不出席は、委員会として支持されていません。副議長を含む複数の委員が出席を求めました。
第三に、制度の改善は「検討中」の段階です。区独自のガイドラインは準備中とのことですが、それが住民向けの解説資料にとどまるのか、事業者への報告要求水準を定める制度にまで踏み込むのかが、今後の焦点です。
これからの話
私は本日の質疑の最後に、こう申し上げました。
「要綱をアップデートし、住民の不安を解消するような要綱にしていく、事業者にしっかりと説明させる要綱にしていくということは必須だ。必ず取り組んでいただきたい」。
千石の計画は現在進行形です。説明会の期間はまだ残っています。この期間中に、区が具体的にどう動くのか。要綱の改善にどこまで踏み込むのか。引き続き注視し、必要な提言を行っていきます。