もし豊洲五丁目のデータセンター用地に250戸のマンションが建っていたら ―江東区の受益を試算する
この記事のポイント
- 豊洲五丁目のデータセンター計画地に250戸のマンションが建つと仮定して試算すると、区にはマンション協力金約2.8億円+特別区民税年0.75〜1.3億円(30年で25〜40億円)が入る。データセンターの場合、区の直接収入はほぼゼロ
- 巨額の固定資産税・償却資産税は都税となり、23区全体に配分される。立地区への還元経路はない
- 区の制度は協力金も財政調整も「人」を測る物差ししか持たない。延床2万㎡超で1シフト10〜15名程度しか人を生まないデータセンターだけが、制度の隙間を素通りする
- 一方で要綱の運用・説明会対応・工事調整などの行政コストは発生し、全区民が負担する。これは周辺住民だけの問題ではない
- 問うべきは「データセンターといえば江東区」になる未来が区民の利益なのか。現行制度のままなら答えは否。財調需要算定への反映、要綱・条例の更新、協定という道具はある
2億7,625万円と、0円。
豊洲五丁目2番の計画地(敷地約6,689㎡)に、いま計画されているデータセンター「(仮称)HND12」ではなく、250戸のファミリーマンションが建つと仮定した場合――事業者が江東区に納める公共施設整備協力金の試算額と、データセンターの場合の額です。
前回の記事(豊洲五丁目にデータセンター計画 ―なぜ江東区にDCが集まり、区の税収にはならないのか)で、データセンターの固定資産税が23区では都税となり、立地区に還元される経路がないという構造を書きました。今回はその続きとして、同じ土地に何が建つかで、区の受益がどれだけ変わるのかを、一つの思考実験として試算します。
先に断っておくと、これはデータセンターの排除論ではありません。そしてこれは、データセンターの隣に住む人だけの話でもありません。区民全員の利益に関わる話です。その理由を、数字で示します。
前提:250戸という仮定
計画地の敷地は約6,689㎡。すぐ南東には693戸のパークホームズ豊洲ザ・レジデンス(2016年竣工)があります。この敷地規模と周辺の建ち方から、中規模のファミリーマンションとして250戸・居住人口約600人(1戸あたり2.4人で計算)を仮定します。あくまで比較のための仮定であり、以下の数字はすべてこの前提に基づく概算です。
マンションなら、区に何が入るか
① 公共施設整備協力金:約2.8億円(一時金)
江東区のマンション等の建設に関する条例・指導要綱では、30戸以上のマンションを建設する事業者に、公共施設整備協力金(議会では「マンション協力金」と呼ばれています)として**125万円 ×(ファミリー住戸数−29戸)**の負担を求めています。
住民が増えれば、学校・保育・福祉のコストも増えます。マンションは区にとって「儲かる」だけの存在ではありません。だからこそ、人口増が生む公共施設の需要に対して、その整備費の一部を事業者に負担させる――コストと財源をセットで測る物差しが、制度に組み込まれているのです。
250戸なら、125万円 × 221戸 = 約2億7,625万円。これは都を経由しない、区に直接入るお金です。
② 特別区民税:年0.75〜1.3億円(毎年)
250戸の世帯が住めば、住民は特別区民税を納めます。周辺相場の分譲マンションの世帯像から、1戸あたり年30〜50万円と幅を持たせて置くと、年間約0.75〜1.3億円。30年間の累計で25〜40億円の規模になります。これも区の直接収入です。
③ 人口600人が動かすお金
住民600人分の人口は、地方消費税交付金の人口按分に反映され、都区財政調整の需要算定(人口を基礎とする測定単位)にも算入されます。人口の増加が生む行政需要は、財源の配分に反映される仕組みが最初から存在するのです。
データセンターなら、区に何が入るか
同じ土地にデータセンターが建った場合を並べます。
| 項目 | 250戸マンション(仮定) | データセンター |
|---|---|---|
| 公共施設整備協力金 | 約2.8億円 | 0円 |
| 特別区民税 | 年0.75〜1.3億円 (30年で25〜40億円) |
0円(住民がいない) |
| 法人住民税 | ― | 都税(区には入らない) |
| 固定資産税・償却資産 | 都税(財調で全区配分) | 都税(財調で全区配分)。サーバー等の償却資産で巨額になるが、立地区への還元経路なし |
| 人口 | 約600人 → 財調の需要算定・地方消費税交付金に反映 | 0人 |
| 区に生じる行政負担 | 学校・保育等 → 需要算定に反映される | 要綱の運用、説明会対応、住民相談、工事調整、稼働後の苦情の一次対応 → 算定に反映される仕組みがない |
固定資産税だけを見れば、データセンターの方が大きいかもしれません。サーバーなどの償却資産は巨額です。しかしその税は都に入り、財政調整を通じて23区全体に配分されます。印西市のように、データセンターの税収が市の教育や子育ての財源になる構造(前回記事参照)は、23区には存在しません。
区に直接入るお金は、ほぼゼロ。一方で、要綱の制定・運用、説明会への対応、住民相談、道路管理者としての工事調整、稼働後の騒音・排熱の苦情の一次窓口――これらの行政コストは、確実に区に発生します。
「それは工場だって同じだろう」という反論について
ここで、当然の反論に先に答えておきます。住民がおらず、協力金もなく、固定資産税が都税になるのは、準工業地域の工場だって同じではないか――。
表面上はその通りです。しかし決定的な違いが一つあります。工場は人を生みます。延床2万㎡級の工場なら数百人規模の雇用があり、従業員は昼食をとり、買い物をし、一部は区内に住んで区民税を納めます。仕入れや下請けの取引が地域経済に回ります。オフィスビルなら千人単位の就労者、物流倉庫も数百人の雇用、商業施設なら来街者。用途は違っても、大規模な建物は住む人か働く人か訪れる人を生み、その「人」を通じて地域に何かを返してきました。
データセンターは、この例外です。延床2万㎡超の千石の計画で、運用時に配置される人員は1シフトあたり10〜15名程度――事業者が住民への回答書で示した数字です。同じ延床をオフィスにすれば千数百人が働く規模の建物に、各時間帯で十数名。住む人も、働く人も、訪れる人も、ほとんど生みません。ここまで「人」を生まない大規模用途は、データセンターのほかに、まず見当たりません。
江東区の準工業地域は、石炭埠頭、発電所、ガス工場の時代から、騒音や煤煙という負担と引き換えに、雇用と電力・ガスという直接の便益を地域に返す施設を受け入れて発展してきました。負担と便益の交換が成立していたからこそ、準工業という器は地域に受け入れられてきたのです。データセンターは、この器の負担の側だけを引き継ぎ、返す側の機能を持ちません。
そして、区と都の制度が「人口を測る物差し」しか持っていないことを思い出してください。協力金は住戸数、財政調整は人口。人をほとんど生まない大規模用途が、人を測る物差しから漏れる――データセンターが制度の隙間を素通りするのは、偶然ではなく必然なのです。
マンションの方が区民の利益になる。それが現行制度の答えです
ここまでの試算が示す通り、現行の制度の下では、この土地にマンションが建つ方が区と区民の利益になることは明確です。協力金約2.8億円、区民税年0.75〜1.3億円、需要算定に反映される人口600人。対して、区の直接受益ほぼゼロと、算定されない行政負担。この事実から目をそらすつもりはありません。
ただし、それはマンションという用途が偉いからではありません。区と都の制度が「人口を測る物差し」しか持っていないからです。協力金は住戸数で測り、財政調整は人口で測る。データセンターを測る物差しは、どこにもない。マンションが有利なのは制度の帰結であって、自然法則ではありません。だから私の結論は「データセンターを排除せよ」ではなく、「物差しのない現状を放置するな」です。
これは隣に住む人だけの問題ではない
騒音、排熱、重油。これまで問題は「データセンターの近くに住む住民」のものとして語られてきました。千石の662世帯、豊洲の隣接住民。私自身、そう報じられる現場から発信してきました。
しかしこの試算が示すのは、別の顔です。
区内の大規模用地にデータセンターが建つたびに、そこに入るはずだった協力金と区民税は発生せず、要綱の運用・説明会対応・工事調整・稼働後の苦情対応という行政コストだけが発生する。そのコストを負担するのは、データセンターの近くに住んでいるかどうかと関係なく、区民全員です。亀戸の住民も、大島の住民も、南砂の住民も、自分の見たこともない施設の行政コストを、その施設からの見返りがないまま負担することになる。
そして立地は続きます。データセンターの条件は、まとまった開発用地と豊富な電力・通信インフラ。千石は駐車場、豊洲はビルの解体跡でした。この条件が揃う準工業地域を広く抱えるのが江東区であり、市場に任せる限り、区内で大規模な用地が空くたびに最有力の買い手はデータセンターであり続けます。大規模な土地は、一度使われれば数十年戻りません。
江東区は、豊洲や有明の開発が示す通り、人が住み、人口が増えることで発展してきた区です。その発展を支えてきた限られた大規模用地が、住民ゼロ・区への直接税収ゼロ・行政負担ありの施設で順に埋まっていく。これは騒音や排熱という個別の生活環境の問題を超えて、区の人口、財政、まちの姿そのものに関わる、全区民の問題です。
しかも現状、この帰結を誰も選んでいません。区民も、区議会も、区も、この土地利用の連鎖について一度も意思決定をしていない。決めているのは市場の力学だけです。
区が答えるべき問い
東京都のガイドラインは、データセンターへの対応策として「区市町村が地区計画を定める」ことを挙げました。裏を返せばこれは、あなたのまちの土地をどう使うかは、あなたのまちが決めなさい、ということです。ならば、区が正面から答えるべき問いは一つです。
これからも江東区の大規模開発用地にデータセンターが建ち続けることは、江東区と江東区民の利益になるのか。
この問いを、区益のエゴだと言う人がいるかもしれません。しかし私は区議会議員です。データセンターの国家的な必要性は国会が、東京全体にとっての意味は都議会が語ればいい。江東区と江東区民の利益を問うことは、私の仕事そのものです。 私が千石から豊洲までこの問題を追い続けてきた理由は、突き詰めればこの一点にあります。
現行制度のままなら、この試算が示す通り、答えは否です。しかし答えを変える道具は存在します。
1. 都区財政調整への反映 データセンター立地に伴う区の負担を、財政調整の需要算定に反映させる。これは都区協議のテーマになりえます。
2. 区の要綱・条例の更新 区がマンションに協力金を求められるのは、制度が「住戸数」という物差しを持っているからです。住戸のないデータセンターには、この物差しは当てられません。延床面積や受電容量など、施設の規模と負荷に応じて負担を求められる物差しへ、制度を作り直す。
3. 事業者との協定 協定は、財政的な地域還元の器になると同時に、私が一貫して求めてきた次の3点を約束として書き込む器にもなります。
- 報告仕様の標準化:騒音・振動・排熱・排ガスについて、どの気象条件で、どの測定方法で、どの形式で報告するかを区が定める
- 第三者検証:事業者の自己評価ではなく、独立した専門家がシミュレーションの前提と結果を検証する
- 稼働後モニタリング:建設前の説明で完結させず、稼働後の実測と公表、基準超過時の是正手順を事前に合意する
お金の還元と、生活環境の担保。物差しのない現状を変える中身は、この両方です。
どの道具を使うにも、まず区がこの問いを、周辺住民への対応ではなく全区民の問題として立てることが先です。
豊洲は区内2例目であり、力学からいって最後にはなりません。問いを立てるなら、3例目が来る前の、今です。
数年後、「データセンターといえば江東区」と呼ばれる未来は、いまの力学の延長線上に普通にあります。かつてこの区は、23区のごみを一手に引き受け、その構造を変えるために闘った歴史を持っています。便益は広く薄く全体に、負担は狭く濃くこの区に――同じ形の問いが、姿を変えてもう一度来ているのです。それでいいのかを決めるのは、市場ではありません。区と、区民です。
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