江東区議会議員 中島雄太郎

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江東区の川はなぜ氾濫警報が出ないのか?水門とポンプで水位を管理する仕組み

江東区の川に「氾濫警報」が出ない理由をご存じでしょうか。

8月22日、関東南部を猛烈な雨が襲いました。都内では豊島区・板橋区・北区で「記録的短時間大雨情報」が発表され、1時間に約100〜120ミリの猛烈な雨に。善福寺川と神田川には「氾濫危険情報(警戒レベル4相当)」、練馬区の白子川には「氾濫発生情報(警戒レベル5相当)」まで発表されました。

一方の江東区は、海抜ゼロメートル地帯を抱え、大横川、小名木川、旧中川、横十間川など多くの川と運河が走る「水の街」であるにもかかわらず、これらの川に氾濫情報が発表されることはありません。低地の江東区こそ真っ先に危ないように思えるのに、なぜ警報が出るのはいつも山の手の川なのか。今回はこの一見不思議な違いを、江東区を水害から守っている水門とポンプの仕組みから解説します。

今年から始まった「危険警報」 —5月に変わった防災気象情報

本題に入る前に、この夏よく耳にするようになった「レベル4」「レベル5」という言葉を整理しておきます。

今年5月28日、防災気象情報の体系が大きく見直されました。大雨・河川氾濫・土砂災害・高潮の情報が5段階の「警戒レベル」で統一的に整理され、警報と特別警報の間には、警戒レベル4に当たる「危険警報」が新設されました。「氾濫危険警報」「大雨危険警報」といった名称をニュースで目にするようになったのは、この制度改正からです。避難指示の目安となるレベル4の情報が、災害の種類を問わず名称だけで分かるようになりました。

今回の豪雨は、この新しい制度の下で、東京23区に危険警報が相次いで発表された初めての本格的なケースと言えます。「レベル4」「レベル5」という数字がニュースの見出しに並ぶ光景は、これから毎年の夏の風物詩になっていくはずです。

制度上の答え —江東区の内部河川は「氾濫情報」の対象河川ではない

東京都は、洪水のおそれが大きい河川のうち、将来の水位を予測して氾濫情報を発表する河川を「洪水予報河川」、実際の水位が基準に達した際に情報を発表する河川を「水位周知河川」に指定しています。神田川・善福寺川は前者、白子川は後者です。一方、大横川や小名木川などの江東内部河川はどちらにも指定されておらず、そもそも同じ仕組みの氾濫情報が発表される対象ではありません。

では、なぜ指定されていないのか。ここからが江東区特有の治水の話です。

神田川や善福寺川は「水位が暴れる川」

神田川や善福寺川では、流域に降った雨が短時間で川に集まり、大雨のたびに水位が急上昇します。調節池や護岸の整備は進んでいますが、水位が雨量に応じて大きく変動する川である以上、水位を常時監視し、氾濫の危険を段階的に知らせる必要があります。氾濫警報とは、いわば「水位が急変しうる川」に取り付けられた監視装置なのです。

江東区の川は、水位そのものを人工的に管理している

これに対して江東内部河川は成り立ちが根本から異なります。長年の地盤沈下により、江東三角地帯は広い範囲が満潮時の海面より低くなりました。そこで東京都は内部河川をおおむね東西に分け、それぞれ別の方法で守る仕組みをつくりました。

東側は「川の水位そのものを下げる」方式です。旧中川、横十間川、北十間川東側など特に地盤の低い東側の河川は、水門・閘門で荒川などから締め切ったうえで、排水機場のポンプにより平常時の水位をA.P.マイナス1.0メートルに保っています。自然に水位が上下しているのではなく、あらかじめ水位を低く設定して、雨を受け止める「余裕」を常に確保してあるのです。旧中川の河川敷が水面に近い穏やかな景観なのは、この水位低下事業の結果です。

西側は「護岸と水門で外水から守る」方式です。大横川、小名木川西側、平久川、仙台堀川などは隅田川や東京港とつながる感潮河川で、普段は潮の満ち引きで水位が上下します。こちらは耐震護岸で川を囲み、高潮などの際には水門を閉鎖して外からの水の侵入を防ぎます。

この東西の水位差をつないでいるのが、小名木川の「扇橋閘門(こうもん)」です。船が通る際に前後の扉を閉めて水位を上下させる、いわばパナマ運河の江東区版。普段は船のための施設に見えますが、江東区の治水システムを象徴する施設でもあります。

そして市街地に降った雨を受け持つのは下水道です。雨水は道路の雨水ますから下水道管に入り、ポンプ所で川や海へ排水されます。7月のゲリラ豪雨の際、木場ポンプ所から大横川へ大量の水が放流され、泡状の浮遊物と強い臭いが発生した様子をお伝えしましたが、あれはまさに、街を浸水から守るシステムがフル稼働し、普段は見えない都市の治水が目に見えた瞬間でした。

江東区の川が豪雨時にも静かなのは、幸運ではなく、水門・護岸・排水機場・下水道・ポンプ所という巨大なシステムが常時動き続けているからです。

ただし「警報が出ない=安全」ではない

ここで「だから江東区は心配いらない」と結論づけるのは間違いです。江東区のリスクは、種類が違うだけで消えていません。

第一に内水氾濫。23区の下水道は時間50ミリ程度の降雨を基本に整備されてきました。都は現在、時間75ミリ対応の施設整備と貯留・浸透などの流域対策を合わせ、時間85ミリの降雨で浸水被害を防ぐことを目標としていますが(下記画像参照)、今日観測されたのはそれをも上回る100〜120ミリです。同じ雨が江東区に集中すれば、川が氾濫しなくても、下水道に入りきらない雨が道路にたまる冠水や浸水は起こりえます。「川があふれる水害」と「街に水がたまる水害」は別物なのです。

『東京都豪雨対策基本方針(令和5年12月改定)』p.34より抜粋

第二に、高潮や荒川氾濫という巨大な外水のリスク。防潮堤や水門など幾重もの備えがある一方、想定最大規模の高潮や荒川の氾濫が起きれば広範囲の浸水が想定されており、江東5区の広域避難が検討されているのはこのためです。ゲリラ豪雨とは規模の次元が違う災害への備えは、今後も必要です。

区議として取り組むこと

ここまでの治水インフラの中心は東京都の所管であり、区が独自に下水道幹線やポンプ所を増強することはできません。しかし、区にできることはあります。

例えば、雨が下水道へ入る最初の入口である道路の雨水ます。ここが落ち葉やごみ、置かれた物で塞がれていれば、地下に余力があっても道路に水がたまります。区道の雨水ますの点検や障害物の除去は、地道ですが確実に効く対策です。また江東区では、一定規模以上の建築物に雨水の貯留槽や浸透ますなどの設置を促す「雨水流出抑制」も進めており、街全体で雨水が一気に下水道へ流れ込むのを抑えることが内水氾濫のリスク低減につながります。

7月9日の江東区水防連絡会では、東京都下水道局から区の浸水対策について説明を受け、水門やポンプ所、下水道がどう街を守っているかを改めて学びました。私たちが江東区の低地で暮らせている背景には、先人が水害と地盤沈下との長い闘いの中で築いた、極めて大規模な治水インフラがあります。その仕組みを分かりやすく伝えることも、地元議員の役割だと考えています。

区としてできる対策を着実に進め、基幹インフラの整備・強化は東京都に働きかける。豪雨に強い江東区をつくるため、尽力してまいります。

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