江東区議会議員|中島雄太郎

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江東区の拠点避難所のWi-Fi、5千万円かけて「使えるときには必要ない、必要なときには使えない」構成にしていいのか

2年前の指摘から始まった話

本日の令和8年度予算審査特別委員会で、拠点避難所の公衆無線LAN維持管理事業について質疑を行いました。

この問題を取り上げるのは2回目です。2年前の令和6年度予算審査特別委員会で、私は以下の点を指摘しました。

  • 拠点避難所69か所にフレッツ光の200Mbps回線を導入しているが、200Mbpsでは200台の同時接続は到底不可能であること
  • 大規模災害時には電柱倒壊や光ファイバーの断線により、回線自体が使えなくなるリスクがあること

当時の防災課長からは、「通信手段の多様化は重要であり、衛星通信サービスについてもコスト面を含め調査研究する」との答弁がありました。

あれから2年。今回の予算案では、本事業に約5,009万円が計上され、回線と機器構成の変更が打ち出されています。

何が変わるのか

区の答弁によれば、今回の変更は大きく2点です。

回線の変更: フレッツ光(固定回線)から、モバイル回線(携帯電話回線を使うホームルーター型)への切り替え。配線工事が不要で、施設の被災状況に応じた柔軟な運用が可能になる、とのこと。

機器の変更: Wi-Fi6やOpenRoaming対応の可搬型アクセスポイントへのアップデート。機器性能としては確かに向上です。

機器のスペック向上は素直に評価できます。問題はバックボーン回線の方です。

「使えるときには要らない、要るときには使えない」

この事業の目的は、大規模災害時に拠点避難所で区民が通信できる環境を確保することです。その前提で、今回の構成を考えてみます。

ケース1:携帯基地局が被災し、携帯通信が途絶した場合

避難所に設置されたホームルーターも同じ携帯回線ですから、当然使えなくなります。避難所のWi-Fiは機能しません。

ケース2:携帯基地局が無事で、携帯通信が使える場合

避難所に来た区民は、自分のスマートフォンで普通に通信できます。わざわざ避難所のWi-Fiに接続する必要性は低い。

つまりこの構成は、使えるときには必要ない、必要なときには使えないということになります。

私自身、携帯通信のホームルーターを実際に設置して使用した経験がありますが、数人で使う分にはともかく、拠点避難所で多数の避難者が同時に使用するような環境に堪えるものではありません。これはカタログスペックの話ではなく、使ってみての実感です。

この点を問うたところ、区は「能登半島地震を踏まえ、携帯電話事業者間の連携が強化されており、移動基地局車などによる復旧体制も年々強化されている」と答弁しました。また、「避難所運営に必要な行政情報の共有といった役割もある」とも。

しかし、これは「復旧されるまでの間は使えない」ことを事実上認めているわけです。大規模災害の発災直後こそ通信が最も必要な局面であり、「復旧を待てばいい」では、避難所の通信環境整備としての意義が問われます。

5千万円かけて冗長性を後退させている

さらに深刻なのは、今回の変更が通信の冗長性をむしろ後退させている点です。

現行のフレッツ光は、確かに200Mbpsと貧弱でした。しかし、固定回線であるフレッツ光は、携帯基地局とは独立した通信インフラです。

大規模災害で携帯回線が輻輳し、区民のスマートフォンが繋がりにくくなったとしても、光回線が物理的に断線していなければ、避難所のWi-Fiは別系統として機能し得ました。つまり、現行の構成には携帯網がダウンした際のバックアップとしての意味があったのです。

ところが、今回の計画でバックボーンを携帯回線に切り替えれば、避難者のスマートフォンも避難所のWi-Fiも、同じ携帯基地局に依存することになります。通信手段が単一の障害点に集約されるわけです。

これは、5千万円をかけてアップグレードしたつもりが、災害時の通信の冗長性をむしろ後退させていることにならないか。機器のスペック向上に目を奪われて、バックボーン回線の独立性という本質を見落としているのではないか――そう問いました。

区からは、「固定回線が持つインフラとしての独立性に比べ、通信の冗長性の観点では課題が残るものと認識している」との答弁がありました。課題があることは認めた形です。

衛星通信(スターリンク)との二重化を

ではどうすればいいのか。答えの一つは衛星通信です。

2年前にもスターリンクの導入を提案しました。その後、令和6年度に東京都から1台が江東区に配備され、防災センター屋上で接続テストが実施されています。区としても「地上インフラに依存しない衛星通信として、災害時に一定の有効性と強靱性を有することは確認している」との答弁でした。

私自身も昨年の木場公園での江東区総合防災訓練において、KDDIの災害用スターリンクに実際に接続し通信速度を測定しましたが、約40Mbpsの速度が出ていました。本部と現場の連絡、写真送付、情報発信といった緊急通信には十分な性能です。

携帯基地局が被災しても、衛星通信は地上インフラに一切依存しません。今回の携帯回線への切り替えで失われる「回線の独立性」を補えるのは、まさに衛星通信です。

携帯回線と衛星通信の二重化について区の見解を問うたところ、「通信手段の独立性が高まり、災害時の冗長性が確保される点については認識している」としつつも、「引き続き情報収集および調査研究を進める」との答弁でした。

2年前も「調査研究する」でした。もう一歩踏み込んだ対応を求めたいところです。

契約前に実機テストを

最後に、具体的な提案として、契約前の実機テストの実施を求めました。

今回導入予定の可搬型APセットについても、衛星通信についても、カタログ上の理論値と実際の避難所環境での性能は異なります。建物の構造、周辺の電波環境、多数同時接続時の実効速度――こうした条件は、実際に試さなければわかりません。

区民の命に関わる災害時の通信インフラです。カタログスペックを信じて契約ありきで進めるのではなく、実機テストの結果を踏まえて最善の通信環境を整備すべきです。

この提案に対し、区は「契約前の段階で実機を用いたテストを実施することについては、事業者との調整を図る」「検証結果については議会にも適切に報告できるよう検討を進める」と答弁しました。

実機テストの実施と、その結果の議会への報告。この2点については前向きな答弁を得られたと考えています。

まとめ

今回の質疑で明らかになったのは、以下の構図です。

  • 機器のスペックは向上する(Wi-Fi6、OpenRoaming対応)
  • しかしバックボーン回線を携帯回線に一本化することで、災害時の通信の冗長性はむしろ後退する
  • 「使えるときには必要ない、必要なときには使えない」構成に5千万円を投じようとしている
  • 衛星通信との二重化が解決策になり得るが、区は「調査研究」にとどまっている
  • 契約前の実機テストと議会報告については前向きな答弁を得た

拠点避難所の通信環境は、区民の命に直結するインフラです。機器のアップグレードだけに目を奪われず、「災害時に本当に繋がるのか」というバックボーンの問題に正面から向き合う必要があります。引き続き、実機テストの実施と衛星通信の二重化を求めていきます。

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