江東区議会議員 中島雄太郎

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熊本の避難所は他人事ではない ―江東区の避難所の広さは国際基準の半分以下

熊本の避難所で、いま起きていること

熊本県で発生した地震の報道で、避難所の様子が伝えられています。体育館での雑魚寝、猛暑の中で空調のない環境、仕切りのない生活空間。「狭くて眠れない」「暑さがこたえる」という被災者の声が報じられています。

10年前の熊本地震でも、地震の直接の被害ではなく、避難生活の負担などが原因で亡くなる「災害関連死」が、直接の犠牲を大きく上回りました。避難所の環境は、命に直結する問題です。

この10年、国も手をこまねいていたわけではありません。国は、国際的な人道支援の基準である「スフィア基準」を踏まえ、避難所の面積の指針を「1人あたり3.5平米」へと改定しました。問題は、この基準と各自治体の現実との間に、大きな距離があることです。

江東区の避難所は「1人あたり畳1畳」

では、江東区はどうか。私は昨年(2025年)の第1回定例会の一般質問で、この点を区に確認しました。

区の収容基準は「3.3平米あたり2人」。1人あたり約1.65平米です。

ぴんと来ない数字かもしれませんが、畳1畳が約1.62平米です。つまり、大人1人に畳1畳分。そこで寝て、荷物を置き、着替え、食事をする。それが計画上の前提です。国の新基準「1人あたり3.5平米」は畳でいえば2畳強。それでようやく、簡易ベッドを置き、隣との間に人ひとり通れる余地が生まれる広さです。スフィア基準を踏まえた新基準に対し、現行はその半分以下——満たせていないのが現実です。

付け加えれば、この「3.3平米あたり2人」という基準は江東区が特別に厳しいわけではなく、従来から広く使われてきた標準です。問題は、国が基準を改めた今、この古い前提のままでは通用しなくなっているということです。

区の答弁は率直なものでした。新基準を適用した場合、収容面積が約2倍必要となり、現行の計画では対応が難しい。だからこそ、さらなる避難所の確保や在宅避難の推進など、総合的な対策を進める――というものです。私はこの答弁を評価しています。できないことを「できない」と認めるところからしか、実効性のある対策は始まらないからです。

しかも、マンション住民は最初から数に入っていない

さらに知っていただきたいのは、この「畳1畳」の計算の前提です。

江東区地域防災計画(震災編)は、避難所を「地震等による家屋の倒壊、焼失などで被害を受けた者又は現に被害を受けるおそれのある者を一時的に受け入れ、保護するための施設」と定義しています。さらに計画は、「避難所の収容人数に限りがあることを踏まえ」、自宅での生活が可能な場合の在宅避難など、多様な避難行動を推進するとも明記しています。

つまり、耐震性が高く建物が無事なマンションにお住まいの方は、在宅避難が基本とされ、避難所の受け入れ対象としてはじめから想定されていないのです。人口の8割強がマンション住民である本区では、この前提の置き方が、避難所計画全体を左右します。逆に言えば、マンション住民を受け入れ対象から外した現在の計画でも、現行基準でようやく収まる水準だということです。そこに余裕はありません。

「マンションの人は避難所に来ない」は成立するか

ここで考えなければならないのは、発災時に本当にマンション住民が避難所に来ないのか、ということです。

建物が無事でも、停電すればエレベーターは止まり、断水すればトイレが使えなくなります。余震への不安から避難所に身を寄せる方も、当然いるはずです。計画上の「在宅避難が基本」という想定と、発災時の現実の間には、確実にギャップが生じます。

つまり、江東区の避難所の現実は、数字の見かけ以上に厳しいのです。

雑魚寝は「面積」の帰結でもある

今回の地震でも、SNSでは海外の避難所との比較が話題になりました。イタリアや台湾では、体育館にテントや個室型のパーティションが整然と並ぶ。一方、日本は今も床にマットを敷いた雑魚寝が続く。この差はどこから来るのか。

私はこの問題を、2024年秋の決算審査でも取り上げました。災害関連死は、東日本大震災で3,700人以上、10年前の熊本地震では226人、実に全死者数の約8割にのぼります。これを防ぐ鍵として国際的に重視されているのが「TKB」、すなわちトイレ・キッチン・ベッドを発災48時間以内に整備することです。

区の姿勢は前向きです。私の質問に対し、区は「災害関連死の発生をなくしたい」との認識を示し、段ボールベッドの新規備蓄、携帯トイレ約8万7千回分の追加、間仕切りテントの倍増、事業者との資機材協定などを進めてきました。答弁の中では、台湾やイタリアの取組を「好事例」として研究していくとも述べています。ここは率直に評価したいと思います。

私自身、昨年秋に区の中央防災倉庫を視察し、テントや簡易ベッドの備蓄が実際に積み上がっている様子を確認してきました。

江東区中央防災倉庫(2025年10月視察)。間仕切りテントや簡易ベッドの備蓄が進む

ただし、ここで面積の問題が戻ってきます。ベッドを置き、テントを張れば、その分ひとりが使う床面積は増えます。1人あたり畳1畳分という現行の前提のままTKBを本気で展開すれば、収容できる人数はさらに減る。つまり、避難所の「質」と「量」はトレードオフの関係にあり、面積の確保なしに質だけを追うことはできないのです。雑魚寝の解消と収容力の維持を両立させるには、分母となる面積そのものを増やすしかありません。

在宅避難の実効性は、まだ道半ば

そしてもう一つ、避難所の負荷を根本から減らす方法が、避難所に来なくて済む人を増やすこと――在宅避難の実効性を高めることです。

江東区の人口の8割強はマンションにお住まいです。耐震性の高いマンションであれば、発災後も自宅にとどまって生活を続けることができます。避難所の面積が構造的に足りない本区にとって、在宅避難は選択肢の一つではなく、防災戦略の生命線です。

ただし、在宅避難は「自宅が無事ならなんとかなる」という話ではありません。一般質問で確認した数字を挙げます。

  • 都の「東京とどまるマンション」への区内の登録は49件。区内マンション総数4,242件の約1.1%
  • 分譲マンションのほぼすべてに管理組合はあるものの、防災マニュアルを作成しているのは約24%
  • 家庭での備蓄率は7割超(令和5年度・区調査)

※数字はいずれも質問時点(2025年2月)のものです。

備蓄は着実に広がっている一方、マンションという「建物単位」の備えはまだ道半ばです。区は今後、とどまるマンションの対象マンションへの個別勧奨を強化すると答弁しており、ここは前進として注視していきます。

三つを、同時に進める

整理します。江東区の避難所を熊本のような状況にしないために必要なことは、三つあります。

一つ、避難所の面積を増やすこと。国際基準に近づける努力は、すべての改善の入口です。

二つ、TKBによる質の整備を続けること。段ボールベッドや携帯トイレの備蓄は始まっています。この歩みを止めないこと。

三つ、在宅避難の実効性を高めること。マンションにとどまれる条件を整え、避難所に来なくて済む人を実際に増やすこと。

この三つはどれか一つでは機能しません。質を上げれば面積が要る。面積が足りなければ在宅避難が前提になる。在宅避難を言うなら建物単位の備えが要る。全部つながっています。

熊本の報道を、遠い場所の出来事として消費するのではなく、自分の住むまちの数字に引き寄せて考える。そのための材料として、この記事を書きました。私自身、この三つのテーマを一昨年から議会で継続して取り上げてきました。引き続き、区議会で取り組んでまいります。

出典:江東区地域防災計画(令和7年度修正・震災編)第2部第10章

この記事で触れた質問と答弁の全文は、議会質問データベースで公開しています。

マンション防災と在宅避難を中心とした災害対策の強化について(2025年第1回定例会 一般質問)
https://y-nakajima.net/archives/1729

「体育館での雑魚寝」を当たり前にしない――拠点避難所のTKBと通信環境を問う(2024年 決算審査特別委員会)
https://y-nakajima.net/archives/1715

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