江東区議会議員 中島雄太郎

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江東区・北砂の不燃化特区、目標達成には助成の拡充を ―区も「効果」を認めた

不燃領域率、目標70%に対し現状62.6%。物価高騰下の目標達成への道筋を問う

この記事のポイント

2026年第二回区議会定例会の防災・まちづくり対策特別委員会で、私は北砂三・四・五丁目地区の不燃化特区を取り上げました。木造住宅密集地域の防災という、区民の生命と財産に直結するテーマです。議会での質疑を踏まえ、ご報告します。

  • 不燃化の到達度を示す「不燃領域率」は、令和6年度時点で62.6%。目標は、地震で火災が起きても延焼による焼失がほぼゼロになる「70%」。しかし事業の期限まで残り約6年、現状の年1ポイント弱のペースでは、期限内に届かない可能性が高い
  • 私の質疑に対し、区は特区の施策に不燃化を加速させる効果があることを、数字とともに認めた(5年間で区全域1.4ポイントの向上に対し、特区内は4.7ポイント)。効果があるなら、強化すれば加速できるはずです。
  • ところが今、かつてない物価高騰が、助成の実効性を静かに削っている。そこで私は、今の経済状況に合わせた助成の拡充を提言しました。区の答弁は「一定の効果がある」と認めるものでした。残る論点は「やるかやらないか」ではなく「いつやるか」です。

「一定の効果がある」という答弁を、実際の拡充につなげられるか。私は引き続き、議会の場で求めてまいります。

不燃化特区とは何か

まず、この事業が何を目指しているのかを整理します。

木造住宅が密集し、道路が狭く、老朽化した建物が多い地域は、地震で火災が起きたときに炎が次々と燃え移り、大規模な市街地火災につながる危険があります。関東大震災でも、東京の下町を焼き尽くしたのは、揺れそのものよりも、その後に広がった火災でした。

この「燃え広がりやすさ」を改善するのが、不燃化のまちづくりです。東京都は、特に危険性の高い地域を対象に、通常より手厚い支援を行う「不燃化特区制度」を設けています。江東区では、北砂三・四・五丁目地区が平成26年度からこの指定を受け、令和8年4月には事業期間の延伸に伴う再指定を受けて、引き続き取り組んでいます。

具体的には、老朽建築物を取り壊す除却費や、燃えにくい建物への建て替えにかかる設計費・監理費の一部を区が助成し、あわせて、狭い道路を6メートル以上に広げる防災生活道路の整備や、除却した跡地を小さな広場・公園にする取り組みを進めています。

北砂4丁目の江東区不燃化相談ステーション

木密地域の火災は、実際に大惨事を招いている

これは、過去の教訓ではなく、今も現実に起きている危険です。

2024年1月の能登半島地震では、輪島市の朝市通り一帯で大規模な市街地火災が発生しました。マグニチュード7.6の揺れの後に出火した火は燃え広がり、約4万9千平方メートルの市街地で、およそ240棟の建物が焼失しました。木造住宅が密集した地域であったことが、延焼が拡大した大きな要因とされています。

その少し前、2016年12月には、新潟県糸魚川市でも大規模火災が起きています。駅前の木造密集地で発生した火災が強風にあおられて広がり、147棟が焼損しました。火元一帯は、防火性能の低い古い木造建築物が軒を連ねる区画で、そのことが延焼を許した一因だったと指摘されています。

いずれも、建物が密集し、燃えやすい古い建物が連なっている――まさに、北砂の不燃化特区が改善しようとしているのと同じ条件の地域で起きた惨事です。木造住宅密集地域の火災リスクは、決して抽象的な想定の話ではありません。

「不燃領域率70%」が意味すること

この事業の到達度をはかる物差しが、「不燃領域率」です。建物の燃えにくさに加えて、道路や公園といった空地の広さも織り込んで算出される、市街地全体の「燃えにくさ」を示す指標です。

なぜ、目標が「70%」なのか。ここが重要です。東京都の資料によれば、不燃領域率が60%を上回ると延焼による市街地の焼失率は0%に近づき、70%を超えると、延焼による焼失率はほぼゼロになるとされています。

つまり70%とは、行政が便宜的に置いた数値ではありません。「地震で火災が起きても、延焼で焼け落ちる家がほぼなくなる」――その分岐点が、70%なのです。

北砂三・四・五丁目地区の不燃領域率は、事業開始時の平成26年度で55.5%。そこから毎年少しずつ向上し、令和6年度時点で62.6%まで来ました。着実な前進です。委員会での私の質疑も、区の答弁も、この地区の目標が70%であることを前提に交わされています。

このペースで、70%に間に合うのか

しかし、道のりを冷静に計算すると、楽観はできません。

不燃領域率の推移を見ると、令和2年度から6年度にかけての伸びは、おおむね年1ポイント前後で推移しています。直近の令和5年度から6年度も、61.5%から62.6%へ、1.1ポイントの上昇でした。

江東区議会防災・まちづくり対策特別委員会(2026年6月25日開催)資料より抜粋

このペースを前提に計算します。現状の62.6%から70%までは、あと7.4ポイント。年1ポイント弱のペースで埋めるとすれば、7年から8年ほどかかる計算です。しかし、不燃化特区制度の期限は令和13年3月末、残りは約6年。つまり、今のペースのままでは、期限までに70%へは届かない可能性が高いのです。

何かを変えなければ、間に合わない。では、何を変えるのか。その答えを探るために、私はまず、一つの前提を区に確認しました。

区の施策には、不燃化を加速させる力がある ―区も認めた事実

私が委員会で確認したのは、こういうことです。年1ポイント前後の向上は、区の助成制度など施策の効果なのか、それとも建物の寿命に伴う自然な建て替えの進行によるものなのか。

もし自然な建て替えの結果に過ぎないなら、助成を増やしても加速は見込めません。しかし施策の効果なら、施策を強化すれば加速できるはずです。ここは、対策を考える上での分かれ道です。

区の答弁は明確でした。平成28年度から令和3年度までの5年間で、区全域の不燃領域率の向上が1.4ポイントにとどまるのに対し、特区内は4.7ポイント向上しており、「取り組みの成果は十分出ている」とのことでした。

これは重要な答弁です。特区の手厚い支援があるところでは、不燃化はおよそ3倍のスピードで進んでいる。つまり、区の施策には、不燃化を加速させる力が確かにある。区自身が、数字でそれを認めたのです。ならば、話は明快です。その施策を強化すれば、70%への道のりを縮められるはずです。

しかし、物価高騰が助成の実効性を削っている

ところが今、その施策の足元を、かつてない物価高騰が揺るがしています。

資材の高騰、人手不足、工事費の上昇。これはこの特区でも現実に起きており、地区内の防災生活道路の整備工事は、昨年度に続いて今年度も入札が不調に終わっています。行政の公共工事ですら、予定価格で受け手がつかない。それほどの高騰です。

同じことは、住民の建て替え・除却にも起きています。建て替えや除却には数百万円の費用がかかりますが、助成額が据え置かれたままでは、工事費が上がった分だけ、住民の実質的な負担は増していきます。制度の額面は同じでも、その実効性は、物価高騰の中で放っておけば目減りしていくのです。

不燃化を加速させる力を持つ施策が、インフレによって静かに弱められている。これを放置したまま「70%」を語ることはできません。

そこで私は、助成の拡充を提言しました

以上を踏まえ、私は委員会でこう求めました。期限が決まっている中で不燃領域率を70%に持っていくためには、昨今の経済状況に合わせた助成の拡充が、目標達成には必要ではないか。

区の答弁は、助成引き上げには「一定の効果がある」と認めるものでした。一方で、高齢化による意欲の低下、権利関係の複雑さや合意形成の難しさといった課題に加え、財政負担も伴うため、時期やタイミングは市場動向等を踏まえて慎重に検討する、とのことでした。

効果は認める、しかし時期は慎重に。財政を預かる行政として、慎重さは理解します。しかし、施策に効果があることは区自身が数字で認め、助成引き上げの効果も認めた。残る論点は「やるかやらないか」ではなく「いつやるか」です。そして物価高騰が助成の実効性を日々削っている以上、先送りにはコストが伴います。私は、判断の時期は今だと考えています。

もっとも、助成の増額だけで、すべてが解決するわけではありません。区が答弁で挙げた「高齢化」は、意欲の問題にとどまりません。この地区の老朽建築物には、高齢の所有者が多く住んでいます。年金生活の高齢者にとっては、助成を受けてもなお残る自己負担分を借り入れること自体が難しく、資金面が建て替えを阻む大きな壁になっています。現行の制度では十分にカバーしきれない、こうした構造的な事情も、目標達成を難しくしている要因の一つです。だからこそ、助成額の引き上げと併せて、こうした資金の壁を越えるための工夫も、今後の課題になると私は考えています。

気がかりは、計画の指標が「66%」にとどまっていること

助成拡充を考える上で、もう一つ、指摘しておきたいことがあります。

区の長期計画(後期・令和7年度〜11年度)を開くと、この地区の不燃領域率の指標は、11年度末で「66%」と設定されています。現状の62.6%から66%までは3.4ポイント。今のペースでも、期限内に届く見込みの数字です。

しかし、先に述べた通り、延焼による焼失がほぼゼロになるのは70%を超えたときです。66%は、延焼リスクが残る水準です。そして、計画上の指標が「今のペースで届く数字」に置かれていると、助成を拡充してまで加速する動機が、行政の中で生まれにくくなります。指標を達成できるなら、現状維持でよい、という力学が働くからです。

だからこそ、私はここを曖昧にしたくありません。区が目指すべきは、計画上の66%ではなく、延焼焼失ほぼゼロの70%のはずです。その意思を計画と予算の両方に反映することが、助成拡充への道を開きます。

災害は、期限を待ってくれない

そして、もう一つ、忘れてはならない視点があります。

この事業には、令和13年3月末という期限が設定されています。しかし、私たちが備えようとしている地震は、その期限に合わせて起きてくれるわけではありません。区の長期計画自身が指摘している通り、首都直下地震は、今後30年以内に70%の確率で発生すると想定されています。それは、来年かもしれないし、来月かもしれない。

だとすれば、不燃領域率を70%に引き上げるのは、期限内に間に合わせればよい、というものではありません。1年でも、1日でも早く達成することに、デメリットは何もない。早く達成できれば、それだけ多くの区民の生命と財産が、火災の危険から守られます。

「期限までに達成する」ではなく、「一日でも早く達成する」。災害への備えとは、本来そういうものだと考えます。だからこそ、達成を前倒しするための投資である助成の拡充は、単なる財政負担ではなく、区民の命を守るための、最も確実な備えなのです。

「一定の効果がある」を、実際の拡充へ

整理します。区の施策には不燃化を加速させる力があり、区自身がそれを数字で認めました。助成引き上げの効果も、区は認めました。一方で物価高騰は助成の実効性を削り続けており、現状のペースでは、延焼焼失ほぼゼロの水準である70%に、期限内に届かない可能性が高い。

必要なのは、今の経済状況に合わせた助成の拡充です。財政負担を理由に時期を慎重に検討するという区の立場は理解しますが、災害は検討の完了を待ってくれません。

「一定の効果がある」という答弁を、答弁のままで終わらせない。実際の助成拡充という結果につなげ、北砂を、そして江東区北部の木密地域を、一日でも早く「燃え広がらないまち」にする。私は引き続き、議会の場でこれを求めてまいります。

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