なぜ都心の住宅地・江東区千石で大規模データセンター計画が進められているのか
都心プレミアム、規制の空白、届かない説明。住宅地のすぐ隣で進む計画の前提を整理する
データセンター建設計画発覚から現在までの経緯
江東区千石で大規模データセンターの建設計画が進められています。令和6年末に建設計画が明らかになると、住宅地に近接した立地であることから、周辺住民の間で早い段階から不安や疑問の声が広がりました。
こうした状況を受けて、江東区は 令和7年3月24日 に「江東区データセンター建設対応方針」 を決定し、公表しました。
しかし、その後も住民側と事業者側の間で計画の進め方や説明のあり方をめぐる合意形成は進まず、不安や懸念は解消されない状態が続きました。この間、本件に関する陳情が周辺住民から区議会に複数提出され、区議会の委員会において審査が行われてきました。
こうした状況を踏まえ、江東区は 令和7年12月15日 に「江東区大規模データセンターに係る建築計画の早期周知に関する指導要綱」 を制定し、令和8年2月1日 から施行しました。
要綱の施行を受け、事業者は 令和8年2月1日 に建築計画の看板を設置し、2月6日 に最初の住民説明会が開催されました。
その後、2月8日、2月12日 と説明会が続けて開催され、私自身も、これら 3回の説明会すべてに参加し、住民から出された懸念や質問、事業者の説明の内容を継続して確認してきました。
説明会を通じて明らかになったのは、住民が求めているのが「生活への実害が出ないのか」「不安をどう解消するのか」という問いである一方、事業者の説明は「準工業地域における建築として現行ルールに適合している」という点に重心が置かれており、両者の関心と問いのレベルが噛み合っていないという状況です。
こうしたすれ違いが生じている背景には、そもそも「なぜ都心の住宅地で大規模データセンターが計画されているのか」という前提が、十分に共有されていないという問題があります。
千石データセンターは「AI向けデータセンター」ではない
説明会で共有されていたイメージ
全国各地でデータセンター建設をめぐる問題が起きています。その際によく語られるのが、「AI需要の拡大」や「デジタル社会に不可欠なインフラ」といった説明です。
千石の計画についても、説明会の場では、こうした一般的な文脈で受け止められている場面が見られました。住民の側から、「データセンターそのものは必要だと思うが、ここに建てる必要があるのか」といった発言が繰り返し出されていました。
今回の計画の実際の性質
しかし、これらの発言は、今回の計画の性質を正確に反映したものではありません。
一般に、AI向けデータセンターは、大量のGPUによる学習処理を前提とするため、莫大な電力と広大な敷地、大規模な排熱処理が必要になります。そのため、電力コストが低く、土地に余裕のある地方や郊外に立地するのが合理的であり、実際にそうした施設は地方を中心に整備が進んでいます。
一方で、千石の計画は、こうしたAI学習向けデータセンターとは性質が異なります。
設計上も、事業者の説明においても、高密度GPUによるAI学習を主目的とした施設ではありません。想定されている主な用途は、金融機関の基幹系システムや決済・清算システム、グローバル企業のミッションクリティカルな業務インフラです。
これらの用途が重視するのは、大量の計算能力ではなく、低遅延、高信頼性、そして中枢拠点への近さです。
この点については、2月8日の説明会終了後に事業者に時間を取ってもらい、私自身が直接確認しています。その際に示された想定顧客は、金融機関および、いわゆるGAFAに代表されるグローバルな大規模事業者であり、AI学習を主目的とした施設ではない、という説明でした。
前提が共有されないことで生じているズレ
ただし、この前提は、説明会の中で十分に共有されていたとは言えません。その結果、住民の発言も「AI需要への対応」という一般的なイメージを前提に「必要性は理解するが、場所が違うのではないか」という問いの立て方になっていました。
重要なのは「AI向けデータセンターではない」ことが分かったからといって、直ちに千石という立地の是非が判断できるわけではない、という点です。むしろ、この前提が共有されて初めて、本来議論すべき論点が見えてきます。
AI用途であれば、「なぜ地方ではなく都心なのか」が主な問いになります。
一方で、AI用途ではなく、金融機関やグローバル企業の基幹系システムを対象とするのであれば、次に問われるべきなのは、
・なぜ都心中枢への近接性が必要なのか
・そのために、なぜ千石という立地が選ばれているのか
・その立地選択によって、周辺の生活環境にどのような影響が生じ得るのか
・その影響をどこまで予測し、どう管理し、誰が責任を持つのか
という点です。
AI用途ではないことを住民が理解したからといって、不安が自動的に解消されるわけではありません。しかし、その理解がなければ、立地の合理性や生活影響という核心的な論点に、そもそも議論が到達しません。
この計画について丁寧な説明が求められる理由は、用途のラベルを貼り替えることではなく、千石という場所で、この性質のデータセンターを建てることが、どのような意味と影響を持つのかを具体的に示す必要があるからです。
千石が選ばれる理由 ― 大手町への近さが生む「都心プレミアム」
データセンターと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、郊外の工業地帯、高速インターチェンジの近く、周囲に住宅が少ない場所でしょう。千石はそのイメージとはかけ離れています。
千石は東京の都心環状部の内側に位置し、大手町や日本橋といった中枢エリアに極めて近い場所です。「都心から少し離れた場所」ではありません。都心機能が密集するエリアと、ほぼ同一の都市圏・通信圏にある場所です。
大手町周辺にはメガバンク本店、証券会社、清算機関、決済・取引関連システムが高度に集積しています。ここは単なるオフィス街ではなく、日本の金融システムの中枢です。そして金融・決済・基幹系システムの世界では、物理的な距離がそのまま通信遅延(レイテンシ)に直結し、レイテンシの差がリスクとコストに跳ね返ります。 数ミリ秒の遅延が、アルゴリズム取引の成否、リアルタイム決済の安定性、システム冗長化の設計に影響する世界です。
そのため 「大手町にどれだけ近いか」という条件そのものが、賃料、回線費、オプション料金という形で巨額の収益に転化されます。 千石からであれば、大手町中枢と専用の光ファイバーで直結する構成も技術的に十分成立し、それ自体が高額なオプション商品になります。
事業者が説明会で「大手町からの距離」を繰り返し強調するのは偶然ではありません。それがこの事業の最大のセールスポイントであり、事業者自身がこの計画を高付加価値・高収益案件として位置づけていることの表れです。
そして、千石のような条件を満たす土地――大手町に近接し、かつ大規模なデータセンターを新設できる――は、東京でもほとんど残っていません。既存の都心データセンターは老朽化や増床不可といった制約を抱えており、新規供給は極めて限られています。
その結果、千石のデータセンターが実現すれば、賃料は一般的なデータセンターを大きく上回る水準になります。金融系テナントは価格よりも安定性・近接性を優先するため、長期契約・高単価・厳格な解約条件といった、事業者にとって極めて有利な条件が成立し得ます。
規制前に建てる――先行者利益という動機
東京都における規制議論の現在地
この計画を理解するうえで、もう一つ欠かせない前提があります。それは、データセンターをめぐる規制の議論が、東京都レベルでは「始まりつつある段階」にあるという点です。東京都において、データセンターに関する具体的な規制内容や基準が整理され、制度設計が進んでいるわけではありません。
参考記事(東京新聞)
<論戦 都議会>一般質問 データセンター対応 情報把握の仕組み整備へ ドクターヘリ 消防と連携して対応
実際には、都議会において、データセンターの増加にどう対応するのか、環境や電力インフラ、地域との関係をどう考えるのかといった問題意識が、一般質問の形で示されている段階にとどまっています。
答弁においても、「デジタル社会においてデータセンターは不可欠である」「今後、情報把握の仕組みや指針の整理を検討していく」といった方向性が語られているものの、排熱、騒音、非常用発電設備、都市インフラへの影響といった具体的な論点について、明確な基準や規制の枠組みが示されている状況ではありません。
つまり、現時点では「規制がすでに存在する」のではなく、「規制が必要ではないかという問題意識が共有され始めた」という段階にあります。
事業者から見た「予見可能な未来」
しかし、こうした状況であっても、将来的に何らかの規制や指針が設けられる可能性が高いことは、事業者側にとって十分に予見可能です。排熱や騒音、非常用発電設備、都市インフラへの影響といった点が、今後まったく議論されずに済むとは考えにくいからです。
規制前に完成させるという二つの動機
この状況は、事業者に二つの強い動機を生みます。
第一に、規制が導入される前に建設を完了させたいという動機です。規制が整備されれば、追加的な設備投資や運用上の制約が課される可能性があり、現行制度のもとで建設してしまう方が、事業リスクは低くなります。
第二に、規制前に完成させることで、都心部における大規模データセンターという希少な立地条件を、事実上先取りできるという点です。後から同様の施設を新設することは、規制導入後には一層困難になると考えられます。
この合理性が説明会にどう表れるか
都心プレミアムと規制前というタイミング。この二つが重なったとき、事業者の行動が、時間をかけた丁寧な合意形成よりも、現行制度上の要件を形式的に満たし、許認可手続きを滞りなく進めることに重心を置いたものになりやすいのは、経済合理性の帰結です。
これは、事業者の善悪の問題というよりも、制度と市場の構造が、そうした行動を合理的にしてしまっているという問題だと言えるでしょう。そして、この姿勢は、建設計画の進め方だけでなく、住民説明のあり方にも反映されます。
すなわち、「現行制度に適合しているか」「確認申請や許認可の要件を満たしているか」という点が説明の中心となり、それ以上の不確実性や生活影響については、制度上求められていない限り、説明の射程に入りにくくなります。
この構造を踏まえると、現在行われている説明会で、なぜ議論が噛み合わないのかが見えてきます。
説明会はなぜ噛み合わないのか
説明会に参加して痛感するのは、住民と事業者の間に横たわる「問いのレベルの違い」です。
住民は「排熱で周辺の気温はどれだけ上がるのか」「低周波騒音は長期的にどう影響するのか」「稼働後に問題が出たらどう対応するのか」という、生活影響に基づく問いを投げています。
一方、事業者が口頭で「現行ルールに適合している」と繰り返しているわけではありません。しかし、説明会で配布される資料の構成も、住民からの質問に対する回答の内容も、突き詰めれば「現行ルールの枠組みを守っている」という点に集約されています。
建築基準法上の適合性、用途地域との整合、法令で定められた基準値の範囲内であること。説明の土台がそこに置かれている以上、住民が抱える生活レベルの不安や疑問には、構造的に届かないのです。
住民が問うているのは生活への実害。事業者の説明が拠って立つのはルール上の適否。この構造的なズレが、説明会の混乱の根底にあります。

しかも、この問題は事業者の姿勢だけでは解決しません。
そもそも建築確認申請は、用途地域への適合や構造安全性を審査するものであり、住民の合意や生活影響の評価は審査対象ではありません。
また、江東区の指導要綱に基づく説明会は法的義務ではなく行政指導です。説明会が紛糾していても、住民が納得していなくても、法令に適合していれば建築確認は下り得る。説明会は「合意形成の場」ではなく「周知プロセス」にすぎません。
住民が「説明が噛み合っていないのに計画が進む」と感じる違和感は、事業者の不誠実さだけでなく、この制度設計そのものから生じています。
要綱は作られた。しかし枠組みは変わらなかった
江東区は「大規模データセンターに係る建築計画の早期周知に関する指導要綱」を整備しました。データセンターという新しいタイプの施設に対応しようとしたこと自体は一歩前進です。
しかし、その中身は従来のマンション建設と同型の「説明会モデル」の延長にとどまりました。
データセンターは従来の建築物とは性質が異なります。排熱、低周波騒音、24時間365日の連続稼働による累積的影響、非常用発電設備の実稼働頻度、将来の設備更新による負荷変化。これらは「計画の概要を説明する」従来型の説明会では評価も、共有も、管理もできません。
本来であれば、生活影響に直結する指標での説明、報告仕様や測定条件の行政側による設計、第三者専門家による検証、稼働後を見据えたモニタリングの枠組み。こうしたデータセンター特有のリスクに対応した仕組みが要綱に組み込まれるべきでした。
それが実現しなかった結果、住民は「100%安全」を求め、事業者は「基準内」を繰り返すという、制度的に解けない対立構造が固定化しています。これは運用の失敗というより、制度設計の不備です。
制度設計の段階で、この問題は見えていた
実はこの点について、私は昨年12月5日の区議会建設委員会で区から要綱案が提示された際に、すでに問題提起を行っていました。
具体的には次の3点です。
第一に、住民が知りたいのは「生活影響」だということ。 周辺気温がどれだけ上がるのか、デシベルでは見えない低周波ノイズの体感はどうか。技術データではなく、生活実感に結びつく指標での説明が必要であると指摘しました。
第二に、報告の仕様を行政側が設計すべきだということ。 事業者が自ら設定した前提でシミュレーション結果を出すだけでは、住民の疑問に答える形式にならない。測定条件、報告単位、提出形式を行政が定めるべきだと求めました。
第三に、専門家を入れなければ実効性がないということ。 有識者を交えて仕様を決めない限り、要綱は形だけのものになると警鐘を鳴らしました。
これに対する当時の答弁は、「基準がないので難しい」「事業者が条件を設定してシミュレーションする」というものでした。
その指摘が十分に反映されないまま、要綱案はそのまま要綱として策定されました。
懸念は現実のものとなった
その後、実際の説明会がどうなるのかを見極めるため、私は3回の説明会に参加し、議論の経過を見守ってきました。
結果は、残念ながら当初の懸念通りでした。
住民が生活影響への不安を訴え、事業者の説明が現行ルールの枠内にとどまるというすれ違いが、まさに起きています。事業者は130項目にのぼる住民からの質問書を1年間放置してそもそも信頼を失っている中で、初回から準備不足が目立ち、住民側のリクエストのマスコミの取材は拒否。
説明会が荒れることは予見可能だったにもかかわらず、事業者も行政も修正行動を取らなかった。指導要綱が想定する「早期周知・不安解消」という目的は、すでに達成不能になっています。
制度設計段階で論点は明確に提示されていました。それが要綱に反映されなかった以上、今回の混乱は行政の判断の帰結と言わざるを得ません。
政治として問うべき論点
私は評論家ではありません。江東区議会議員として、地域の生活環境と都市政策のルールがどのように設計され、運用されるべきかに責任を負う立場です。そのため、本件についても、事実整理だけで議論を終わらせることはできません。
千石の計画は、都心プレミアムという強い経済合理性の上に成り立っています。だからこそ、形式的な手続きだけで前に進めば進むほど、地域との摩擦は深くなります。ここから先は、以下の論点を正面から議論する必要があります。
利益と負担の釣り合いは取れているのか
高収益を見込める事業であるほど、事業者のインセンティブは強くなります。しかし、だからといって地域が負担するリスクが無制限に許容されるわけではありません。
「儲かるからやる」という経済合理性と「そこで暮らす人の生活環境」という公共性が衝突したとき、政治が問うべきは利益と負担の釣り合いです。
これだけの高収益が見込まれる事業であるなら、追加的な環境対策、第三者検証、厳格な協定を求めることは過剰要求ではなく、合理的なコスト配分です。
「適法」は「安全」を意味しない
データセンターは現行の建築・環境規制の想定外の性質を多く含む施設です。確認申請が通ることは「現行法令違反ではない」ことを示すにすぎず、「社会的に無害である」「将来にわたって問題が起きない」ことを意味しません。
公害の歴史を振り返れば、建設当時は合法だったものが後に社会問題として認識された例はいくつもあります。排熱、低周波騒音、24時間稼働の累積影響、非常用発電設備の運用について、包括的かつ予防的に規制する法制度はいまだ存在しません。
「規制がない」は「問題がない」ではなく、「問題を想定していない」という状態です。東京都で議論が始まった今、その規制が整備される前に建ててしまうことは、結果として新たな公害を生むリスクを高める可能性があります。
【追記:非常用発電機と燃料保管について】
本計画では、停電時に非常用発電機を約6日間稼働させることを想定し、約120万リットルの重油を敷地内に保管する計画とされています。
この量は、小学校の25メートルプールに換算して約3杯分に相当し、また一般的な規模のガソリンスタンド(1店舗あたり約10万リットル)で見れば、およそ10〜12か所分の燃料貯蔵量に当たります。
非常用発電設備自体は多くの施設で必要とされるものですが、住宅地に近接した立地で、これほどの燃料を恒常的に備蓄することを前提とした生活環境への影響評価や説明の枠組みは、現行の建築・用途地域制度では十分に想定されていません。
そのため、管理体制や事故時対応、運用段階での影響について、制度上の適合性の説明だけでなく、生活環境の視点からの説明と検証が求められます。
見通せないなら、住民と協働してリスクを潰すしかない
データセンターは、実際に稼働して初めて顕在化する影響が少なくありません。排熱も音も振動も、設備更新による負荷変化も、運用が始まってから見えてくる部分があります。おそらく事業者自身も、千石においてどういう問題が発生するかを完全には見通せていないはずです。
であるならば、住民の疑問や質問に対して「できる範囲で」ではなく徹底的に調査し、文書で答え、必要なら計画や対策を修正するという姿勢が不可欠です。
住民が求めているのは「100%安全の証明」ではありません。不確実性があるなら、どう測り、どう監視し、どう改善し、どう責任を持つのか。そのプロセスを示すことです。
データセンターが地域の中に立地する以上、住民は単なる「説明の受け手」ではなく、リスクを潰していくための「協働相手」です。事業者がそれを拒むなら、信頼は回復しません。
今後に向けて
私は昨年12月の建設委員会で要綱案への問題提起を行い、その指摘が反映されないまま要綱が策定される過程を見届け、その後のすべての説明会に参加して現場を確認してきました。当初の懸念が現実のものとなっている今、次のステップに進む必要があります。
私は区議会の場において、行政に対し、以下を求めていきます。
第一に、排熱・低周波騒音等の生活影響について、事業者の自己評価に委ねるのではなく、第三者による測定・検証を前提とした説明の枠組みを制度として整備すること。
第二に、個別事業者の善意に依存しない形で、説明と検証が担保される制度を設計し、必要な働きかけを行うこと。
住民の不安を個人の問題に矮小化せず、都市政策の課題として正面から議論すること。制度が追いついていない過渡期だからこそ、「新しい公害」を生まないための備えを今から作ること。それが、いま政治に求められている役割だと考えています。