物価高騰でマンションの大規模修繕が止まる ―日本一のマンションのまち江東区と『在宅避難』
令和8年第2回定例会の一般質問から、二つ目のテーマをご報告します。物価高騰で、マンションの大規模修繕をはじめとする計画修繕が進められなくなっている問題と、それが区の防災戦略に直結するという連関について、議場で質しました。
この記事のポイント
- 江東区は分譲マンションのストック戸数が全国の市区町村で最多(132,149戸)。マンション維持が日本一重いまちです。
- 物価高騰で、総会で承認された修繕工事すら発注できず凍結・延期に追い込まれるマンションが出ています。努力不足ではなく構造的な問題です。
- これは家計の問題にとどまりません。区は「在宅避難」を防災の柱に据えていますが、その前提は建物の健全性。修繕が滞れば防災戦略の前提が崩れます。
- 区はこの連関を答弁で認めました。一方、私が提案した区独自の助成制度は創設しないとしつつ、継続的支援の必要性は認めました。構造を認めさせたのは前進ですが、具体策はこれからです。
この記事の全体像を、まず一枚の図でご覧ください。

過去の物価に縛られた仕組み
江東区は、分譲マンションのストック戸数が全国の市区町村で最も多いまちです。東京カンテイの調査で132,149戸。区自身の実態調査でも区内マンションは4,242件、うち築30年以上が4割を超えています。マンションの維持・管理は、よそのまち以上に切実な課題です。
そのマンションを支えるのが、長期修繕計画と修繕積立金です。しかし、この仕組みには構造的な弱点があります。
長期修繕計画は、過去に立てた工事費の見積りを前提に、毎月の積立金額を設計しています。積立金は自動では増えず、増額には総会での重い合意形成が要ります。区の実態調査でも、分譲マンションの積立金は毎月一定額の「均等積立方式」が6割を占めます。多くのマンションの修繕計画は、過去の物価水準に縛られたまま、現在の高騰には追従できない構造になっているのです。
計画された工事が、発注できない
そこに、インフレ、資材高騰、人手不足が重なりました。工事費は計画策定時の想定を大きく超え、総会で承認された工事が、発注できず凍結や延期に追い込まれるマンションが出ています。
私自身が管理組合に関わるマンションでも、計画していた共用部の長尺シートの張替え工事について、当初見積りから数百万円単位の値上げがなければ受注できないと業者から伝えられ、凍結が決まりました。
きちんと計画を立て、総会で承認し、積立てを続けてきたマンションでも、社会全体の物価高騰の前では立ち行かなくなる。区の実態調査でも、高経年マンションの耐震化が進まない最大の理由は「費用が不足している」であり、修繕も耐震化も、ボトルネックは費用に集約されます。
これは「防災」の問題でもある
ここからが、私がこの問題を取り上げた最大の理由です。
区は、人口の8割強がマンション住民であることを踏まえ、避難所の過密を防ぐため「在宅避難」を防災の柱に据えてきました。大きな災害でも自宅にとどまれる方には自宅で過ごしていただく。それを前提に、区の防災戦略は組み立てられています。
その前提は、建物が外壁・防水・給排水といった基本性能を健全に保っていることです。修繕が先送りされ劣化が放置されれば、在宅避難の前提そのものが崩れます。マンションの計画修繕がインフレで滞る事態は、各管理組合の家計の問題ではなく、区の防災戦略の根幹を揺るがす問題なのです。
私はこの連関を区がどう認識しているか質しました。区は、在宅避難は建物の安全性が前提であり、計画修繕の停滞はその円滑な実施に影響を及ぼすおそれがある、と明確に認めました。
「東京とどまるマンション」は機能しているか
その上で、区がマンション防災の中心に据えてきた制度を質しました。
区は、耐震性などの対策を講じたマンションを東京都が登録する「東京とどまるマンション」制度を中心に位置づけてきました。しかしその登録は、区の実態調査で把握された区内マンション4,242件に対し、東京都の最新の登録状況でわずか81件。2パーセントにも満たない水準です。
これは都内のどの自治体でも一様に見られる低迷であり、現行制度が管理組合の真に必要とする支援を欠いている表れではないか、と問いました。区も、計画修繕の停滞で登録マンションの対策が不十分になれば、この制度の実効性の担保が難しくなる、との懸念を認めました。
提案 ―区独自の助成を
その上で、提案をしました。「東京とどまるマンション」に登録したマンションが行う計画修繕等に対し、区が独自に助成する制度を創設すべきではないか、と。
利点は三つあります。物価高騰で凍結されかねない修繕を直接後押しできること。助成対象が登録マンションに限られるため、未登録マンションへの強力な登録インセンティブとなり、登録率の低迷の解決にもつながること。そして対象が限られるため区の財政負担も限定的にとどまること。費用対効果の高い施策だと考えています。
区はこの制度を自ら推奨してきた以上、実効あるものへ育てる責任があります。日本一のマンションストックを抱え、在宅避難を防災の柱とする本区こそ、その認識を区独自の支援という行動へ進める時ではないか。そう申し上げました。
区の答弁と、これから
区の答弁は、提案そのものには踏み込みませんでした。「東京とどまるマンション」に特化した区独自の助成制度を創設する考えは、現時点ではない、というものです。
ただし区は、高経年マンションの増加が見込まれる中、マンションのニーズに応じた継続的な支援が必要との認識を示し、登録マンションに限らず区内の住宅ストック全体で維持管理や防災力の強化が図られるよう全庁的に取り組む、とも述べました。
今回、区は、計画修繕が物価高騰で滞る実態を認め、それが在宅避難という防災の柱を揺るがす連関を認め、現行制度の実効性に課題があることも認めました。問題の構造を区の答弁として議事録に残せたことは、大きな前進だと受け止めています。
一方、区独自の助成という具体的な一歩は、今回は引き出せませんでした。構造が共有された以上、次に問われるのは、その認識を支援策へ進められるかどうかです。日本一のマンションのまちとして、引き続き具体策を求めてまいります。