江東区の在宅避難とマンション防災|避難所は約7万人分足りない計算
世帯の86%が共同住宅の区で、防災の仕組みは戸建て・町会前提のまま。在宅避難を「お願い」から「成立させる」へ
この記事のポイント
江東区の防災計画は、マンション防災と在宅避難にもっと力を注ぐべきだ。私はそう考えています。2026年第三回区議会定例会の決算審査特別委員会(令和7年度決算)で、この問題を取り上げました。議会での質疑を踏まえ、その理由をお伝えします。
- 江東区では、世帯の約86%が共同住宅に住み、2世帯に1世帯が11階建て以上の建物で暮らしています。ところが、区の防災の仕組みの多くは、戸建て・低層住宅と町会を前提に作られてきました。
- 区の想定では、避難所避難者は23万4,027人、避難所の収容人数は16万3,400人。約7万人が入れない計算です。断水率は52.4%。家は倒れなくても、暮らせなくなる人が大勢出ます。避難所を増やすだけでは追いつかず、在宅避難は選択肢ではなく、区の防災の前提です。
- そして在宅避難が成り立つかどうかは、エレベーターや給水ポンプなど、建物の共用設備と管理組合の備えにかかっています。各家庭の努力だけでは解決できません。区がマンションを支え、マンションが各住戸を支える「垂直の公助」を、防災計画の柱に据えるべきです。
- 区は、マンションの規模や特性に応じた備えの事例や補助の活用方法について、情報提供の充実に取り組むと答弁し、マンション管理組合が主体の災害協力隊の結成拡大を図るとしました。
在宅避難の「お願い」から、在宅避難を「支える仕組み」へ。世帯の86%が共同住宅に住む江東区の実態に合った防災を。
江東区は、暮らしの単位が「建物」の区
令和2年の国勢調査では、江東区の一般世帯の約86%が共同住宅に住み、約48%、おおむね2世帯に1世帯が11階建て以上の建物で暮らしています。江東区は、区民の暮らしの単位が、マンションという「建物」である区です。
では、江東区の防災は、この街のかたちに合っているでしょうか。
防災の仕組みは、戸建てと町会が前提のまま
日本の防災は、「倒れない・燃えない」街づくりを中心に進んできました。耐震化や、木造住宅密集地域の不燃化です。これは今も欠かせない取り組みで、私自身、北砂の不燃化特区の助成拡充を議会で求めてきました。
【参考】江東区・北砂の不燃化特区、目標達成には助成の拡充を ―区も「効果」を認めた
地域で助け合う仕組みも、町会が単位です。災害時に住民が安否確認や避難所の運営などを担う「災害協力隊」は、町会単位で結成されるのが中心です。その手引き(活動マニュアル)は平成26年の発行から改訂されておらず、規約の例は「隊長は町会長をあてる」となっています。マンションが隊をつくる手順や、建物の中で隊が果たす役割は書かれていません。
避難に手助けが必要な方(避難行動要支援者)の情報も、地域の災害協力隊に提供されます。そのため、町会の隊に属しているマンションでは、管理組合は、自分の建物に支援が必要な方がいるかどうかさえ分かりません。エレベーターが止まったとき、上層階のその方のもとに最初に駆け付けられるのは、同じ建物の住民であるにもかかわらずです。
資機材も同じです。区は、エレベーターに閉じ込められたときのための備蓄キャビネットを提供していますが、対象は水害時の避難場所として区と協定を結んだマンションに限られます。閉じ込めは、マンションに住むすべての人の命に関わるリスクです。
町会が長年、地域の防災を支えてきたことは間違いありません。問題は、防災の仕組みが、街の変化に追いついていないことです。
なぜ、マンション防災と在宅避難に力を入れるべきなのか
理由①:江東区の震災の中心は「家は無事でも、暮らせない」被害
委員会で、区の被害想定を確認しました。都心南部直下地震(冬の夕方6時)で、建物被害は揺れなどで6,600棟、火災で2,697棟。これに対して、断水率は52.4%、停電率は38.6%です。
建物は倒れなくても、停電すればエレベーターが止まる。給水ポンプが止まれば、高層階に水が届かない。区内の半分の世帯で水が止まる想定です。江東区の多くの区民が直面するのは、「倒れる・燃える」被害ではなく、「家は無事でも、暮らせない」被害です。
理由②:避難所だけでは、区民を受け止めきれない
区の答弁によると、避難所に避難する人は23万4,027人。区民の4割を超えます。これに対し、避難所の収容人数は16万3,400人。約7万人が、今の基準でも入れない計算です。
しかも、昨年の第1回定例会で区は、国の新しい避難所の面積の考え方を当てはめると、今の約2倍の面積が必要になると答弁しています。避難所を増やす努力は大切ですが、それだけで追いつく差ではありません。
区の避難所計画は、在宅避難が成り立つことを前提にしています。在宅避難は、区民の「選択肢」ではなく、区の防災の「前提」なのです。
理由③:在宅避難は、各家庭の努力だけでは成り立たない
区の集合住宅防災ガイドブックは、都の想定として、断水の復旧に17日かかるとしています。一方で、区が呼びかける家庭の備蓄は「最低3日、できれば1週間」です。
その差の日々を、エレベーターの止まった建物の中でどう過ごすのか。これは、各家庭が水や食料を多めに備えるだけでは解決しません。エレベーター、給水ポンプ、共用部の電源、階段での物資の運搬。在宅避難を左右するのは、建物の共用設備と、それを管理する管理組合の備えです。
つまり、マンションの在宅避難を成り立たせる主体は、管理組合です。区の防災計画は、管理組合を「支援の受け手」ではなく「防災の担い手」として、はっきり位置づけるべきです。
【参考】物価高騰でマンションの大規模修繕が止まる ―日本一のマンションのまち江東区と『在宅避難』
理由④:日本で最初に経験するのは、江東区かもしれない
日本の防災は、大きな災害を経験するたびに、そこから学んで更新されてきました。裏を返せば、まだ経験していない災害への備えは、制度に組み込まれにくいということです。
高層マンションが集まる市街地を大地震が直撃した経験は、日本にはまだありません。この災害を日本で最初に経験する可能性が最も高いのは、江東区です。経験を待ってから仕組みを変えるのでは、遅いのです。
「垂直の公助」を、防災計画の柱に
では、何を変えるべきか。私は「垂直の公助」を提案しています。
江東区には約30万の世帯があります。大災害のときに、区が在宅避難中の世帯を一戸ずつ支えるのは現実的ではありません。しかしマンションには「建物」という単位があります。建物ごとに状況や足りない物資をまとめて区に伝え、区からは給水や物資、復旧の情報を建物単位で返す。
「区から一戸一戸へ」ではなく、「区からマンションへ、マンションから各住戸へ」。
そのために必要なのは、次の二つです。
- 建物の中の備えを、区が具体的に示すこと。 都の「東京とどまるマンション」に登録すれば、管理組合に上限66万円の資機材補助が出ます。しかし、何を買えば在宅避難に効くのか、管理組合には判断材料がありません。エレベーター内の備蓄キャビネット、蓄電池、水の運搬具など、建物のタイプごとの備えのモデルを区が示すべきです。
- 建物と区を、平時からつなぐこと。 その仕組みは、すでにあります。マンション管理組合が主体となって結成する災害協力隊です。隊をつくれば、平時から区と直接つながり、要支援者の情報も建物の手元に届きます。結成を後押しする説明資料、マニュアルのマンション編、マンション向けの資機材が必要です。
今回の質問で、区が認めたこと
委員会での私の質問と提案に対する、区の答弁を整理します。
避難所だけでは足りないことを、議会の場で確認した
区は、避難所に避難する人を23万4,027人、避難所の収容人数を16万3,400人と答弁しました。どちらも区の計画にある数字です。二つを並べると、約7万人が入れない計算になります。在宅避難を支えることが区の防災の前提であることを、改めて議会の場で確認しました。
登録促進の取り組みが必要だと、区が認めた
「東京とどまるマンション」の登録を増やすため、区は昨年、個別に働きかけると答弁していました。今回、区は、令和7年度は個別の働きかけの実施に至らなかったと答え、「更なる登録促進に向けた取組が必要であると認識」していると述べました。
備えの事例と補助の活用方法の情報提供に、区が取り組むと答弁した
建物のタイプごとに、補助を使った備えのモデルを示すよう求めました。区は、具体例を示すことは「管理組合が必要な備えを検討する上で有効であると認識」したうえで、次のように答弁しました。
マンションの規模や特性に応じた備えの事例や補助制度の活用方法など、管理組合が防災対策の具体的なイメージを持てるよう、分かりやすい情報提供の充実に取り組んでまいります。
今回の答弁の中で、「取り組んでまいります」と具体的な中身を伴って述べたのは、この点です。ただし、いつ、どのような形で示すのかは、まだ明らかになっていません。
マンション管理組合が主体の災害協力隊について
区は、マンション管理組合が主体の災害協力隊について、「在宅避難を支える上で有効な役割を果たすものと認識」していると答弁しました。そのうえで、長期計画に基づき「マンションにおける災害協力隊の結成拡大を図る」と述べました。
私が求めた具体策への答弁は、次のとおりです。
- 管理組合向けの説明資料と、マニュアルのマンション編 →「結成促進に有効な手法の一つであると認識」
- マンション向けの資機材 →「あり方について検討してまいります」
説明資料やマンション編を作るかどうか、資機材を見直すかどうかは、まだ決まっていません。また、結成の目標を持って促進すべきという点には、具体的な答えはありませんでした。
前進したこと、残っていること
昨年の第3回定例会で、区は、マンションの規模や階数に応じたきめ細かな啓発を「検討する」と答弁していました。今回、その中身として、備えの事例や補助の活用方法の情報提供に「取り組む」との答弁を得ました。
一方で、協力隊の説明資料や資機材は、「有効と認識」「検討」の段階にとどまっています。
次の段階へ
「在宅避難してください」から、「在宅避難していても支援につながる」へ。
答弁の内容が実際の形になるかどうかは、2月に示される来年度予算と、今後の区の取り組みにかかっています。マンション防災と在宅避難を、江東区の防災の柱に据えられるか。引き続き議会で確認し、求めてまいります。