江東区議会議員 中島雄太郎

江東区議会議員|中島雄太郎

ブログ

  1. トップ
  2. >
  3. ブログ
  4. >
  5. なぜ不正は長く見過ごされたのか ―深川北スポーツセンターの予約問題が示す、委託業務の死角

なぜ不正は長く見過ごされたのか ―深川北スポーツセンターの予約問題が示す、委託業務の死角

この記事のポイント

2026年第二回区議会定例会の区民環境委員会で、私は深川北スポーツセンターで起きた不正予約問題を取り上げました。個別の不正への対処にとどまらず、区の委託業務全体に関わる「仕組み」の問題として、議会での質疑を踏まえ、区民の皆様にご報告します。

  • 深川北スポーツセンターで、受付業務の委託スタッフによる予約枠の横流しと駐車場の不正利用が長期にわたり続いていた。問われるべきは個人の不心得である以前に、不正を長く見過ごした「仕組み」の側である。
  • 委託事業者が変わっても現場スタッフが移籍して同じ業務に居座ると、業務が属人化し、チェックの目が入らなくなる。この属人化の構造は、深川北だけの話ではなく、区の委託業務全般に潜む内部統制上のリスクである。
  • 区の再発防止策は評価できる。その上で私は、委託事業者・公社・区の三層でチェックが働く仕組みを、区の委託・指定管理業務全体に広げるよう提案した。区はスポーツ施設については前向きな姿勢を示したが、全庁への展開は今後の課題として残っている。
  • 23区のうち8区は、努力義務であるにもかかわらず「内部統制」の方針を自主的に策定している(令和4年・総務省調査)。江東区はこの中に入っていない。さらに区の監査委員も、令和元年度から複数年にわたり全庁的な内部統制の整備を促してきた。深川北の不正が長く見過ごされた根には、内部統制という発想が区政の仕組みとして根付いていない、という土台の問題がある。これこそが、私の問題提起の起点である。

何が起きたのか

深川北スポーツセンターでは、バドミントンの個人利用を、定員を設けた先着順で受け付けています。この電話予約を担当していた委託事業者のスタッフ3名が、受付簿に事前に知人らの名前を書き込み、多数の利用枠を不正に確保していました。さらにそのうち1名は、障害者利用を装って駐車場を無許可で繰り返し使い、本来支払うべき料金を免れていました。

公の施設で、本来は誰もが公平に使えるはずの枠が、一部の関係者に横流しされていた。区民の信頼を裏切る行為であり、許されるものではありません。

ただ、私がこの問題で本当に考えるべきだと思うのは、その先です。なぜ、この不正はこれほど長く続いてしまったのか。

発覚直後、私が抱いた懸念

この件が公表された昨年秋、私はすぐに一つの懸念を発信しました。これは、個々のスタッフの不心得という話で片づけてよい問題ではないのではないか、と。

気になったのは、不正に関わったスタッフが、長期にわたって同じ施設で同じ業務に従事し続けていたという点です。

区が施設の運営を外部に任せるとき、委託先は定期的な入札で見直されるのが原則です。これは価格やサービスを最適に保つためであると同時に、同じ事業者に長く同じ業務を任せ続けることで生じる「なれ合い」や「ブラックボックス化」を防ぐ、という牽制の意味もあります。

「事業者」は変わっても、「人」が居座る ―属人化という落とし穴

ところが、入札で事業者そのものは変わっても、現場のスタッフが旧事業者から新事業者へ移籍する形で居座り続ければ、どうなるか。事業者を入れ替えることで不正を牽制するという仕組みが、形だけのものになってしまいます。

長く同じ人が同じ業務を握り続けることで、業務は属人化します。その人にしか分からない、その人しか触らない領域ができ、他の人の目が入らない。チェックが効かなくなる。今回の不正も、まさにそうした属人化した状態の上で、長期にわたって続いていました。

これは、個人の倫理の問題である以前に、チェックが働かない「仕組み」の問題です。私が会社員時代に内部統制(J-SOX)の構築に携わった経験からも、不正は「悪い人がいるから起きる」のではなく、「単独で記録を操作でき、誰のチェックも受けない状態があるから起きる」ものだと考えています。問われるべきは、その状態を放置していた仕組みの側です。

誰が、どこまで責任を負うのか

では、この「仕組み」は誰が担うのか。責任の構造を整理しておきます。

現場のスタッフを雇用しているのは、委託事業者です。その委託元は、施設の指定管理者である江東区健康スポーツ公社。そして区は、その公社を監督する立場にあります。

ここは丁寧に切り分ける必要があります。区が現場のスタッフを直接管理したり、指揮したりするわけではありません。それは委託という仕組みの性質上、適切ではない。そうではなく、委託事業者の業務体制が適正かを公社が管理し、その公社の管理が機能しているかを区が監督する。責任は、この三つの層に配分されています。 委員会では、この責任構造について区も同じ認識であることを確認しました。

つまり、再発を防ぐには、どこか一つではなく、三つの層それぞれでチェックが働いていなければならない、ということです。

議会で問うたこと

この問題意識を、私は区民環境委員会で正式に取り上げました。

まず確認したのは、委託先が変わっても現場スタッフが移籍して同じ業務を続けるという事象が、深川北に固有のものなのか、それとも一般に起こりうるものなのか、という点です。これに対し区は、そうした人の固定化は一般的に発生し得る事象である、という認識を示しました。 深川北だけの特殊な話ではない、と区自身が認めたことになります。

その上で私は、報告された再発防止策が、電話予約のWEB化や駐車券発券の確認など、今回の個別の手口への対応が中心になっている点を指摘しました。これらは必要な対応です。しかし、ここで一歩進めるべきだと考えました。

そこで提案したのが、長期にわたり同一業務に従事するスタッフがいないかを、委託事業者が把握し、公社が確認し、区が監督する。この三層のチェックの仕組みを、深川北だけでなく、区の委託・指定管理業務の全体に広げて整備することです。これは、不正があったかどうかにかかわらず、委託業務にチェック機能が働いているかという、内部統制上の課題として捉えるべきものです。

前向きな一歩と、残された宿題

この提案に対し、区は、スポーツ施設については仕組みを考えていかなければならない、と前向きな姿勢を示しました。実際に、毎年の入札で事業者が変わる際の仕様書の読み合わせの場で、今回の事案を説明し、スタッフが長期的に固定化していないかを事業者に確認してもらう取り組みを始めている、とのことでした。

区が、個別の手口への対応にとどまらず、属人化という構造そのものに目を向け始めたことは、評価できる前進です。

ただ、課題は残っています。区が前向きな姿勢を示したのは、あくまでスポーツ施設の範囲です。私が問うたのは、区の委託・指定管理業務「全体」に共通する仕組みの話でした。区の業務は、スポーツ施設だけではありません。多くの公共サービスが、委託や指定管理という形で外部に担われています。今回明らかになった「事業者は変わってもスタッフが居座り、業務が属人化する」というリスクは、その全てに潜みうるものです。

そして、私がこの問題の本当の起点だと考えているのは、もう一段深いところにあります。

「内部統制」という発想が、根付いていない

こうした「単独で記録を操作でき、誰のチェックも受けない状態」を組織として防ぐ仕組みを、「内部統制」と呼びます。これはもともと民間企業で確立してきた概念で、上場企業には金融商品取引法によって内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)が義務づけられ、会社法でも一定規模以上の大会社には内部統制システムの整備が求められています。規模の大きい組織ほど、内部統制を備えることが法的な責務とされてきたわけです。

行政にも、同じ概念があります。地方自治法は、都道府県と政令指定都市にはこの内部統制に関する方針の策定を義務づけていますが、特別区を含む市区町村については努力義務にとどめています。民間では広く責務とされてきた仕組みが、自治体の世界では、その規模にかかわらず一部に義務が及んでいない。江東区も、この努力義務の側にあります。

もっとも、努力義務であっても、自主的に方針を定めている区は少なくありません。総務省の調査によれば、令和4年時点で、港区・文京区・台東区・墨田区など、23区のうち8区がすでに内部統制の方針を策定しています。江東区は、この中に入っていません。

区の監査委員も、くり返し求めてきた

そして見過ごせないのは、これが外部から指摘されている話ではない、ということです。区自身の監査委員が、令和6年度第2回定期財務監査報告書において、内部統制を正式な監査の対象事項に据えた上で、「内部統制を全庁的な取組みとして、費用対効果や職員の業務負担、先進自治体の事例等を考慮し、引き続き検討されたい」と区長に意見を付しています。

しかもこの指摘は今回が初めてではなく、同報告書自身が、令和元年度の行政監査以降くり返し言及してきた課題であることを明記しています。区の内部のチェック機関が、複数年にわたり全庁的な内部統制の整備を促し続けているにもかかわらず、正式な方針はいまだ整備されていない。これが現状です。

同じ監査では、契約管理の弱さも各所で指摘されています。契約締結時の仕様書の内容と実際の履行状況が相違している(17課)、履行確認の報告書の写真に日付がない、あるいは写真が使い回しされている(7課)といった事例が、多数の課で確認されました。深川北で起きた「委託業務のチェックが効いていない」という事態は、決してあの施設に固有のものではなく、契約・委託の現場に広く潜む統制の弱さと、地続きのものだと考えざるを得ません。

属人化対策を委託業務全体に広げるという今回の私の提案も、本来はこの内部統制という枠組みの中に位置づけられて初めて、実効性を持ちます。逆に言えば、その枠組みそのものが欠けているからこそ、深川北のような不正が長く見過ごされてしまったのではないか。私はそう考えています。

個別の再発防止で終わらせるのか

一つの施設で起きた不正を、その施設だけの再発防止で終わらせるのか。それとも、区全体のチェックの仕組みを見直すきっかけとするのか。ここで区政の姿勢が問われていると、私は考えています。

区の委託業務全体に、三層のチェックが実効的に働く仕組みを。この点について、引き続き、議会の場で問うてまいります。

江東区の暮らしに関するご意見・ご相談はお気軽にご連絡ください。

前の記事

江東区千石データセンター ―「自治体初」の要望書、その実効性をどう確保するか