江東区議会議員 中島雄太郎

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偏在是正は地方自治と都市の魅力を壊す —税源移転論を検証する

また「偏在是正」の季節がやってきた

2026年4月23日、埼玉・千葉・神奈川の3県知事が自民党税制調査会の小野寺五典会長と面会し、「税源の偏在是正」を文書で要望しました。

政府・与党は「今年度内に検討し、結論を得る」方針を示しており、令和8年度の与党税制改正大綱に偏在是正の方向性が盛り込まれる見通しです。

参考記事:「税源の偏在是正を」神奈川・埼玉・千葉3県知事、小野寺税調会長にも要望「看過し得ぬ」(2026年4月23日配信 産経ニュース)

この議論、江東区議として看過できません。なぜなら、偏在是正が進めば都税収入が減り、都区財政調整制度の原資が縮小し、江東区の財政にも直接影響するからです。

しかしそれ以前に、私はこの議論の組み立て方そのものに、根本的な違和感を抱えています。

「地域間格差は看過し得ない」とは、具体的に何を指すのか

3県知事の要望書や会見内容を読んでも、具体的にどの施策がどう違うのかが一切出てきません。「格差がある」「看過し得ない」「是正が必要」という抽象的な三段論法だけで、政策論として評価可能な具体性が欠けています。

本来、財源移転を要求するなら、「A県はB事業を実施したいが年間◯◯億円不足している。この財源があれば▲▲世帯に□□の便益が生じる」という因果と必要性のセットで語るべきです。しかし今回の3県知事要望は、

  • 東京都に税収が集中している(現象の指摘)
  • 地域間格差がある(抽象的な問題提起)
  • 偏在是正すべき(結論)

という構造で、中間の「だから具体的に何をどうしたいのか」が完全に抜け落ちています。これでは、都民・県民から見て「単に東京の金を寄越せという要求」に見えても仕方ありません。

数字で見る「格差」—都県間はどの程度か

具体性が欠けているなら、数字で検証してみます。

令和7年度当初予算ベースで、東京都と3県の一般会計・地方税収(都税または県税+市町村税)を整理しました。

人口一般会計地方税収合計一人当たり地方税
東京都約1,400万人9兆1,580億円6兆9,296億円約49.5万円
神奈川県約923万人2兆2,158億円約3兆1,560億円約34.2万円
埼玉県約734万人2兆2,309億円約2兆1,385億円約29.1万円
千葉県約630万人2兆1,077億円約2兆1,544億円約34.2万円

※23区では市町村税相当分(固定資産税・法人住民税等)を都が徴収しているため、都税と県税を単純比較すると東京が過大になります。3県は県税+市町村税を合算して、都税と性質を揃えました。

この比較で見えてくるのは、一人当たり地方税収で東京と3県の差は約1.4〜1.7倍ということです。東京は神奈川・千葉の約1.45倍、埼玉の約1.70倍。これが3県知事が「看過し得ない」と呼んでいる格差の実態です。

23区内の格差は、都県間よりはるかに大きい

では、都内はどうか。同じ令和7年度当初予算で、港区・江東区・足立区を比較します。

人口一人当たり特別区民税一人当たり予算額
港区約26.8万人約36.8万円約76.2万円
江東区約54.2万人約11.1万円約51.4万円
足立区約70.0万人約8.1万円約49.6万円
港区/足立区約4.5倍約1.5倍

港区と足立区の特別区民税格差は、一人当たりで約4.5倍。江東区と比較しても約3.3倍。これは、先ほど見た東京都と3県の個人住民税格差(約1.4〜1.7倍)の、2.6倍以上のスケールです。

同じ東京都内・同じ特別区財政調整制度の下にあってなお、これだけの税源格差が存在している。

ただし、都区財政調整制度が一定の平準化を行っている

ところが、一人当たり予算額(一般会計)で見ると、港区と足立区の差は約1.5倍まで圧縮されています。これは特別区財政調整交付金(年1,169億円が足立区に、714億円が江東区に交付)が、港区の潤沢な税源の一部を他区に回す形で、区間の財源格差を埋めているからです。

既存の制度が一定の平準化機能を果たしているという事実は重要です。しかしそれでもなお、一人当たり予算で1.5倍の差が残る。これが港区と足立区の行政サービスに表れる実質的な格差です。

しかし、「23区内で偏在是正せよ」という議論は存在しない

ここが重要な点です。

特別区民税で4.5倍、一人当たり予算で1.5倍の格差が同じ都内に存在する。にもかかわらず、「港区は税収が多すぎる、足立区や江東区にもっと回せ」という議論は、ほとんど存在しません。なぜか。

それは、各自治体がその税収に応じた行政サービスを住民に提供することが、地方自治の本来の姿だと、暗黙のうちに共有されているからです。

港区に税収が集中するのは、港区の経済活動(企業集積、高所得者居住、地価)の結果であり、それを港区民に還元するのは地方自治の本旨に適う。特別区財政調整で一定の平準化は行うが、それ以上の介入はしない。この原則が、都内では機能しています。

であれば、都県間格差は一層「看過すべき範囲内」のはず

ここで、見方を変えてみます。

23区内で許容されている格差(税収4.5倍、予算1.5倍)よりも、都県間の格差(地方税1.7倍)の方が、はるかに小さいのです。

23区内では当然のこととして受け入れられている格差よりも、はるかに小さい格差について、なぜ3県知事は「看過できない格差」などという強い表現で騒ぐのか。

答えは一つしかありません。23区内の格差は「地方自治の当然の帰結」として認められているが、都県間の格差は46道府県が東京から金を取るための政治的な口実として扱われている、ということです。

つまり偏在是正論は、「地域間格差の是正」という美名の下で、実は46道府県が「46vs1」という数の論理で東京の税収を奪う、という提案なのです。

地方自治の原則、都市の個性、そして住民の満足

偏在是正によって地方自治の原則が壊れると、都市の個性と住民の満足も失われます。

港区と江東区では、住んでいる人が違います。港区の住民は、豪華な公立小学校、潤沢な子育て支援、手厚い福祉サービスといった「港区らしさ」を期待し、それを享受するために、高い家賃・地価を受け入れて港区を選んでいます。

一方、江東区の住民は、港区レベルのバブリーな公立施設を江東区に期待していません。江東区には、水辺と下町の雰囲気、豊富な公園、相対的に手の届く住宅価格といった江東区らしさがあり、それを求めて住んでいる。

つまり、こういうことです。港区は、港区民の税収を原資に、港区民特有のニーズを満たす行政運営を行う。それが港区という自治体の個性を形作り、住民の「ここに住んでよかった」という満足につながる。屋上田んぼ付きの公立小学校は、港区民が納めた税金で実現された、港区民のための施策です。

それを享受できる場所として港区があり、そこに住む価値を感じる住民が港区を選ぶ。この循環が、港区という都市の魅力を生み出しています。

同じ構造が、23区のそれぞれの区にあります。江東区には江東区の、世田谷区には世田谷区の、葛飾区には葛飾区の、それぞれ異なる行政運営と魅力があります。各自治体が自らの税収を基盤にその地域らしい施策を展開し、住民がそれを評価して住む。これが地方自治の本来の姿であり、同時に都市が個性を持ち、魅力を生み出す源泉です。

偏在是正は、この都市論そのものを否定する

偏在是正という議論は、この構造を根本から否定するものです。

「東京都に税収が集中しているから、地方に回すべき」という論理を貫徹すれば、東京都はもはや東京都民のための行政運営ができなくなります。東京都民が納めた税金が、東京都民のためではなく、他県のために使われる。これは単に税制の技術的調整ではなく、「東京都民が東京都を選んだ意味」を奪う行為です。

同じことは、区レベルで考えればよく分かります。仮に「港区の税収は多すぎる、他区に回すべき」という議論が始まれば、港区は港区らしい施策ができなくなります。屋上田んぼ付きの小学校は作れなくなり、区独自の手厚い子育て支援もできなくなる。

港区を選んで住んだ港区民は、「港区の住民であることの意味」を失うことになります。そして、その結果として何が起きるか。港区という都市の魅力自体が失われるのです。

各自治体が独自色を打ち出すことで、都市は魅力を持ちます。国全体で見ても、個性ある都市が多様に存在することが、日本という国の豊かさを作っています。地方創生の議論が目指しているものも、本来はここにあったはずです。

ところが偏在是正論は、税源移転という形で、この都市の個性を生み出す財源基盤そのものを取り上げようとしている。「地域間格差を是正する」と言いながら、実は各自治体の個性を平準化し、都市の魅力を削ぐ方向に作用するのです。

3県に必要なのは、偏在是正ではなく、県の魅力を磨くこと

この視点から見ると、3県知事の訴え方自体が、逆方向を向いていることが分かります。

埼玉県・千葉県・神奈川県には、それぞれ独自の魅力があります。埼玉には埼玉の、千葉には千葉の、神奈川には神奈川の、東京都にはない地域資源、歴史、産業、生活環境があり、それを選んで住む県民がいます。

3県知事がすべきことは、東京都の税収を横取りすることではなく、それぞれの県の魅力を磨き、県民の満足と流入人口を増やし、県自身の税源を育てることではないでしょうか。

偏在是正という議論は、地方の独自性と自立を放棄する議論です。3県知事が本当に県民の行政サービス水準を引き上げたいなら、「東京都の金を寄越せ」ではなく、「自県の経済基盤をどう強化するか」を語るべきです。

江東区の税収と個性を守るために

ここまで原則論を述べてきましたが、江東区の財政との関係でも、この議論は看過できません。

偏在是正が進めば、都税収入が減り、都区財政調整原資が縮小します。結果として、江東区のような財政調整交付金を受けている区にこそ、しわ寄せが来る。江東区にとって偏在是正は、地方自治の原則を歪めるという原則論の問題であると同時に、区財政に直接的な不利益をもたらす議論です。

だからこそ私は、この議論を江東区民の利害の問題としても、地方自治の原則の問題としても、放置できません。

偏在是正の議論が具体化する過程で、区民生活への影響を注視し、区議会でも取り上げていく所存です。「看過し得ない」という情緒的フレーズで押し切られることなく、地方自治の本旨と都市の個性を踏まえた、筋の通った議論が行われることを、議会の場からも求めていきます。


※本稿の数字は、令和7年度当初予算ベースで、各自治体公表資料及び報道資料を基に算出しています。人口は令和7年1月1日現在の住民基本台帳人口を用いました。

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